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時渡りは更に過去の中を進んだ。若者の遠い記憶。彼を苦しめる苦悩の原因に触れるために。彼女が強く念じると、場の雰囲気が一気に変わった。場所は先ほどと同じ屋敷の中だが、空気が異常に張りつめていた……
少し屋敷を探索すると、程なくして少女は異変に気づいた。屋敷の一角が、焼け落ちていたのだ。
何があったのか。彼女は探索を続けた。……どこからか子供の声が聴こえる。泣き叫ぶ子供の声が。
時渡りは声のする方向へと歩んだ。玄関を横切り、階段を上り、そして廊下の突き当たり。泣き叫ぶ声は、書斎の中から聞こえていた。
静かに木造のドアを開く。そこには、一人の少年が本棚にもたれかかって泣いていた。弟の方だ。しかし、その傍らに兄の姿はない。
主のいない薄暗い書斎。数々の蔵書がざわめいていた。
少女は音もなく少年に歩み寄り、その目の前にしゃがみ込む。
その気配を察したのか、少年は泣きはらした顔をあげた。
「キミは……誰?」
少女はその質問には答えなかった。ただ黙って少年の内なる「想い」を見透かしている。そして数分の沈黙が流れた後、少女が小さな口を開いた。
「お兄さんは?」
その問いはいたって単純なものだった。小さな子供にもわかる、簡単な質問だ。だが、少年は答えを口ごもり、また膝の間に顔を埋める。
少女はそんな彼を見て、別の質問で問いかける。
「お父さんは?」
静寂の空間を少女の言葉が切り裂く。そして少年は顔を上げずに震えた声で答えた。
「いなくなっちゃった」
「どこにいったの?」
「……お兄ちゃんと同じところ」
「それじゃあお兄さんは?」
「………」
やはりその質問には答えられないようだ。再び沈黙が流れ、静かなる時間がこの場を支配する。
少年が深い悲しみに堕ちているのは目に見えてわかった。それを探るには……
すすり泣く少年の頭を、時渡りは優しく撫でた。そして少年に触れたまま目を閉じ、その想いの中にゆっくりと入っていく。
悲しみと後悔の淵へ。
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