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少年の想い……時渡りは数刻前の過去に降りたった。彼女が足を踏み出そうとした時、ある臭いが鼻につく。
これは……木が燃える臭いだ。すぐに黒い煙が彼女の視野に入ってくる。耳を澄ませば聞こえてくる、パチパチと焼け落ちる音を頼りに少女は廊下を突き進んだ。
時渡りが階下で目にしたのは、燃え盛る台所。その入り口の前で、先ほどの少年が何かわめいている。
「お兄ちゃん!!」
炎の中心に向かって兄を呼び続ける少年。真っ赤にそびえ立つ紅の柱の中から、弱々しい泣き声が聞こえてくる。少女は瞬時に理解した。
この惨事こそが、現在のあの若者を苦しめる忌まわしき記憶に繋がっているのだと。
時渡りの少女は事の顛末を見届けるべく、静かにその場に佇んだ。そして深く集中し、少年の想いに同調する。
(僕が……僕があんなことをしなければ)
少年の後悔が見えてきた。更に少女は集中し、自らの姿を少年に重ねていく。
「お兄ちゃん! はやく出てきてよぉ」
少年は無力に泣き叫んだ。兄は炎に包まれた。自らの過ちのせいで。
今日は二人の大好きなお父さんの誕生日だった。兄弟は父を喜ばせようとして、その帰宅前にとっておきの夕食を用意しようとしたのだ。作る料理も自分たちで決めて、その材料の買い物も兄弟が協力してやってのけた。仲のいい兄弟の健気な行動である。
だが、悲劇が兄弟を飲み込む。
兄弟がいざ、台所に立ったときだった。弟が誤って油を火のついたコンロに注いでしまったのだ。少量ではあったが、それによって立ち上った火柱は兄弟を混乱に沈めるには充分すぎた。
火柱が兄の衣服に引火し、それを脱ぎ捨てたことで弟が床にひいてしまった油に更に引火。結果として台所は炎の海と化した。
何とか炎から逃れて転がり出た弟。しかし、その後に続いていた兄の姿がない。
弟が振り返ると、兄は焼けた衣服に足を取られて転んでしまっていたのだ。
火の回りは予想以上に速く、老朽化していた天井の一角が台所の入り口に落下する。隔てられた兄弟は、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。
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