独占欲「兄への嫉妬」

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少年の過去はそこで途切れた。しゃがみ込む彼の頭から手を離し、時渡りは目を開ける。 少年はもう、泣いていなかった。   「……僕ね、君のこと知ってるよ」   突然、堅かった少年の口が開き、少女に語りかけてきた。ゆっくりと顔をあげて、少女の漆黒の瞳を見つめて話し始める。   「君はあのとき、僕たちを見ていたでしょ?」   「ええ。見ていたわ」   時渡りは否定もせず、少年の言葉に相づちを打つ。その反応を見て、彼は自分の胸の内をさらけ出していった。   「……僕、本当はあの時、お兄ちゃんが戻ってこなくてもいい…って思っちゃったんだ」   自分の言葉に少しうつむいて、続ける。   「お兄ちゃんがいなくなったら、お父さんが僕と遊んでくれる……だから僕…あんなことしちゃったんだ」   少年は言いながら瞳に涙をためていた。時渡りが現在の彼に見た、深い後悔の念が少年から滲みだしてくる。   「でもお父さんもお兄ちゃんも……いなくなっちゃった……誰も…いなく……」   「あなたはお兄さんが嫌いだったの?」   少女の問いに首を振って少年は激しく否定する。   「凄く好きだった! お父さんも……お兄ちゃんも。でも……お父さんはずっとお兄ちゃんばっかりで僕と遊んでくれなかったんだ」   「だから、お兄さんがいなくなればいいと思った?」   「……うん。でもね」   ポロポロと涙を流しながら少年は語る。   「お兄ちゃんも、お父さんもいなきゃ駄目なんだ」   次第に表情は険しくなり、やがて再び泣き顔に変わる。   「ごめんなさい……お父さん……お兄ちゃん……僕が悪い子だったから……本当に……ごめん…なさい……」   本当の後悔。こんな幼い少年が、兄への嫉妬で惨事を引き起こしてしまった。結果、それは彼の心に深い爪痕を残し、長い長い苦悩へと彼を追い落としたのだ。 彼の告白を聴き終えて、時渡りの少女は優しく少年を抱きしめた。
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