一年で一番うれしい日

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一年で一番うれしい日

 その老人は、炭鉱でほとんど一年中働いていた。  年齢はかなりいっている。大柄で体格はいいが、もう歳。  だが、文句ひとつ言わない。へたばらない。情熱的につるはしを使って、岩石群と格闘する。  からだじゅう緑色の炭鉱夫が老人に言葉をかけた。 「少しは休んだらどうだい。じいさん」  老人は汗をふきふき笑顔で応じる。 「なに。こんな苦労。なんでもないさ」 「そんなに稼いでなにに使うんだい」 「ああ。おもちゃを買うんだ」 「おもちゃ?」  そう、その老人はサンタ。子供たちのプレゼントを買うため、日夜厳しい肉体労働に精を出しているのだ。  クリスマスが近づいてくる。サンタはコビトの現場監督に告げた。 「少しだけ、休ませてください」 「ああいいよ。毎年のことだ」コビトの現場監督はどうぞどうぞという雰囲気。「そうでなくてもあんたは働きすぎなんだから。好きなだけ休養しな」  サンタは精霊界の不思議なおもちゃ屋へ繰り出し、一年分の給料でおもちゃを山のように買う。  サンタが訊ねる。 「これで、子供たちが欲しがるおもちゃ、全部かね」 「ああ。全部さ」店主の鼻の長い老嬢はにっこりと笑う。「このおもちゃ屋は、子供たちの欲しいものすべてがそろっているからね」 「ありがとう。では、代金」 「はい。受け取りましたよ。今年も大金だね。一年分の給料だもんね。じゃあサンタさん、気をつけてな」 「来年もよろしくな」  サンタはソリに乗り込み、人間界へ向かう。  イブの夜、子供たちは靴下を吊るす。 「サンタさん、来てくれるよね」 「ぼく、つみきがほしいの。サンタさん、おねがい」 「サンタさん、私、お人形さん抱きたい」  サンタは一軒一軒を巡り、そっとプレゼントを置いていく。  クリスマス。  それは、子供たちにとって、一年で一番うれしい日。  ソリを滑らせながら、サンタクロースはとびきりの笑顔を浮かべる。 「みんないい子だ。いい子だ。朝起きてプレゼントを見たら、どんなに喜んでくれるだろう。よかった。よかった。  一年分の苦労が、一晩で全部報われるわい」  クリスマス。  それは、サンタクロースにとっても、一年間の汗が子供たちの笑顔にかわる、一年で一番うれしい日。
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