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早朝のほんのり冷たい風を受けながら、いつもの様にまだ誰も来ていない道場に1人で自主練習を始める
「ん~、いい線行くようにはなったのになぁ…
なんか、違うんだよなぁ~」
理想とする先輩のフォームを真似てみるも、上手くいかず、矢も的には向かうものの中に当てることも出来ず
「身長差もあるから、あと15、いや20cmくらい伸びて欲しいよな...
そしたら、先輩より高くなれるし…」
「なにブツブツ1人で話しているんだ...」
明らかに呆れている声が聞こえ、声の方を勢いよく振り返り
「あ、姫宮先輩!おはようございます!!
先輩早いですね!自主練ですか?なんか、お手伝いしますか?あ、後でまたフォームチェックもして欲しいんですが!?」
駆け寄って矢継ぎ早に声をかけると、クスッと笑い出す先輩にドキドキする
「ふふっ、本当、柳は犬みたいだよね。俺みたいな愛想も良くないやつに懐くなんて、珍しいよ」
笑う先輩が可愛くて、顔が熱くなる
先輩が欲しい。オレだけのにしたい。
そんなことを考えて見惚れてしまっていると、何故が先輩の様子がおかしい。
急に苦しそうにしゃがみ込んでしまい、耳まで赤くなっている
「えっ...せ、先輩!大丈夫ですか?」
慌てて支えようと肩に触れた瞬間、今までよりもずっと強く甘い香りがし、理性が飛びそうになる
「えっ、これって...ヒート?でも、先輩はαだって...」
涙で潤んだ先輩の目に惹きつけられる
欲しい!先輩が欲しい!
本能が全身で先輩を求めてしまい、襲い掛かりそうになる
なんとか自分の手の甲に血が滲む程強く噛み付き、痛みから正気を保つ
「っフー、っフー…せ、んぱい…すみません。オレ、居るとヤバそうで...」
立ち去ろうてした瞬間に手を掴まれ、身動きが出来ない
「ごめ、今は、ひとりにしないで...薬、俺の鞄に入ってるの、取って」
微かに震えて耐えている先輩に返事をし、鞄の中を漁って抑制剤を見つける
ついでに、自分では使うことはないだろうと思っていた発情の抑制剤を噛み砕くように飲む
徐々に落ち着いてきたのを確認し、先輩に抑制剤と持って来ていた水を渡して飲ませた
やっと先輩が落ち着き、一息つく
「柳、ごめん...この事は、秘密にして欲しいんだけど...」
何度もウンウンと頷くも、自分もまさかこんな事になるとは思ってなかったせいでドキドキして頭が回らない
「だ、大丈夫です!絶対に誰にも言いません!!
でも、まさか姫宮先輩がΩだったなんて...いつも甘くて良い匂いだなぁ~って思ってたけど...」
つい思ってたことを口にしてしまい、重い沈黙が流れる
「……見えないだろ?俺みたいに可愛くもないのがΩだなんて…、自分でも信じられなくて再検査したくらいだし」
苦痛を誤魔化すような笑いに胸が痛む
オレと一緒なのかな?
「今日は、このまま早退することにするよ。万が一、またなってバレると困るから。
柳が冷静で助かった、ありがとう。」
頭をポンポンと撫でられ、胴着のまま帰る先輩を見送る
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