414人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだ。村に戻る前に僕の屋敷に寄ってみてはどうだ? 母も会いたがっている」
「そうね。香麗さまにはきちんとご挨拶したいし。いいの?」
「いいも何も、おまえは凌家の人間なのだから遠慮する必要はない。そうだ、しばらく泊まっていくといい。いや、むしろ凌家で暮らしながら、都で薬屋を開くのはどうだ?」
あ、それいいかも! と蓮花はぽんと手を叩いた。
「凌家の後ろ盾があれば、あれこれ便利そうだし、信頼もあるし、都には大勢の人がいるから繁盛しそう。なーんて、あたしには都の空気は合わないから」
「なんなら、僕の妻にならないか? おまえの店を手伝おう。毎日うまいものを食べさせてやる。おまえの好きな菓子もだ」
どさくさにまぎれての一颯の求婚であったが、残念なことに蓮花の耳には入らなかった。しかし、赦鶯は聞き逃さなかった。
ムッとした表情で、一颯を睨みつける。
二人の男の間に見えない火花が散っていた。が、蓮花はそのことに気づかない。
「さて、もう行くよ」
「屋敷まで送ろう」
荷物を背負い歩き出した蓮花の後を、一颯も続いた。
「蓮花」
呼び止める赦鶯の声に、蓮花は振り返った。
「私はおまえをあきらめない。必ずおまえを妃に迎え、貴妃の地位を用意しよう」
「ん、なに? よく聞こえなかったんだけど、なんか言った」
「いや、なんでも」
「そう、じゃあね。もう二度と会うことはないけど、あんたも元気でね。皇后さまを大切にするのよ!」
最初のコメントを投稿しよう!