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1 運命は満月の夜に導かれて残酷に
「あんたたち旅の人? この先の森に行くのはやめた方がいいよ」
家の前を、馬に乗った男たち数名が通り過ぎようとしていた。
庭先で薬草を煎じていた蓮花は、手をとめて立ち上がる。
呼び止める蓮花の声に、男たちは馬をとめた。
軽装を装ってはいるが、がっちりした体格からして武人であろう。
町を見回る警備の役人よりも、はるかに強そうだ。
着ている衣の生地もしっかりしているから、きっと、それなりの身分の人たちだと思われる。それに、田舎っぽさがない。おそらく、都からやって来た者か。
身分ある者がなぜ、こんな辺鄙な山奥にやって来たのか知らないが、この先に続く森はとにかくヤバいのだ。
森を抜けた先には町があり、その町を抜けたその向こうに景安の都がある。
しかし、彼らが向かう森は通称〝虚ろの森〟と呼ばれ、魑魅魍魎といったたぐいのモノが現れるため、地元の者でも好き好んで入っていこうとはしない森だ。それも、間もなく日が暮れようとしている夜の森に。
やむなく通る時は、日の高い時間に、みな、拝みながら通り抜けていく。
人が踏み込むのをためらう魔の森だが、実は食材が豊富なのだ。
春はたけのこ、夏は果物。秋は木の実やきのこ、冬はユリ根にハマダイコンといった食料がたくさんで、さらに貴重な薬草も生えているから、蓮花自身、それこそ拝みながら森の中をうろついている。
「ああ、知っている。この森が悪霊が巣くう〝虚ろの森〟だからだろう?」
先頭にいる、たぶん一番偉いと思われる男が答えた。
武人と聞くと怖そうと思ってしまうが、男の声は意外にも若く、甘さを含む優しい響きであった。
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