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落ち込みながら部屋を退出して、一息つきたくて店の奥にある手洗いに行って、しょうがない帰ろうかと戻ってきてふと気がついた。
今も会食という名の接待が続いているであろうさっきの部屋。
隣の笹りんどうの印が刻まれた部屋が開いている。
さりげなく覗いたら空室だ。部長達がいる桔梗の部屋とは襖で仕切られている。
さて、急に気になってたまらなくなってきた。
接待はまだ続いているのか?
もしかして、まさかとは思うけど、俺のせいで部長がめっちゃ怒られてたらどうしよう。
『新入社員でもなさそうでしたけど、どういう教育をなさってるんですか!?』
とか。
『弊社との取引を、どのようにお考えなんですか!?』
とかさぁ!
怒られてるかも気になるし、代わりに城崎部長が責められてたら居たたまれない。
ああ、いっそ俺、今からでもあの部屋に飛び込んで、平身低頭謝り倒さないといけない気がしてきた。
城崎部長に申し訳ないし。
部長に嫌われたくないし、明日の朝どんな顔して挨拶したらいいか分からないし。
そんな事をつらつら考えながら、俺はいつの間にか笹りんどうの部屋に上がっていた。
お店の人が来ちゃったら、気分が悪くて休んでた、とでも言えばいいか、な。
気配を殺して隣との間仕切りになっている襖に近づく。
あ、ここちょっと隙間できてる。
……中を見ちゃっていいんだろうか。
妙な静けさに、ふと我に返ってしまった。
隣からは低く抑えた話し声が微かに聞こえるだけで、あとは何も……。
ん、今笑った?
笑い声が聞こえた気がして、俺は反射的に襖の隙間に張り付いた。
一部だけど、さっきまで俺がいた部屋の中が見える。
……。
……とりあえず。
心配していたような、修羅場にはなってなかった。
修羅場ではないけれど。
これはなんだろう。何場?
ちょうど覗いた正面に城崎部長が横を向く形で膝立ちになっている。
あ、言ってなかったけど、城崎部長、部長だけどかなり若くて、そんですっごい美人さんだから。うん、すっごい。だって俺惚れてるもん。
それで、その美人部長の前に竹田さんが立っていて。
城崎部長が竹田さんの、その……、股間、に顔を埋めたかと思うと、器用にジッパーを口で咥えて、ジジッと下ろした。
わあ部長、お上手ですね。
……え、ちょっとこれ、どういうこと?
弊社何やってるの?
御社も急所見えちゃってる、ていうかぼろんってもろに出ちゃってますけど、いいんですかソレ? それにしてもまたご立派なモノをお持ちですね、竹田さん。
人知れず混乱している俺を取り残して場は進んでいく。
その城崎部長が確認するように竹田さんを見上げて、微かに笑った。
俺に向けられたわけでもないその妖しい微笑みで、知らず握りしめた手の中に汗が滲む。
部長、部長、城崎部長、まさか……、しませんよね?
こうなってる理由は分からないけれど、これから何が行われるかは、想像できた。
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