1-対面式ドリンキングバード

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 洒落にならないくらい勃ってきちゃったから、俺が城崎さんに初めて会った時の話しようか。 ね、ちょっと気分転換しよ。落ち着こ。 時間を数日遡ります。 ◇ ◇ ◇  白田有理二十八歳、転職しました。 えへ、そんなに改まって言うことでもないか。 でもでも今日から新しい会社なんだ。やっぱり緊張するよ。 人事の人に案内してもらい、広い事務室内に入った。 以前の職場よりはやや活気があるように感じるけれど、この職種、フロア内はどこの会社も似たり寄ったりみたいだ。 座ってPCに向かっている人、立ち上がりノートPCを抱えてどこか打ち合わせにでも行く人、何人かで集まってミーティングしている人達。 さながら森林限界を越えた山頂のように砂利や岩が殺風景にごろごろしている。 しかし。 ここは唯一他と違う点があった。 有象無象がごった返すその中、一番奥の雛壇のトップ。 この場に不釣り合いなくらい、可憐な白百合が花開いていた。 先立って案内してくれている人は、まっすぐその花の前に俺を連れていく。 あまりの唐突さと美しさに、前に立った俺の口内は緊張で一瞬で干上がる。 意識と視線を奪われながら、半ば上の空で挨拶をした。 「初めまして。これからこちらでお世話になります。白田です」 「しろ、た?」  部長席に座ったその綺麗な人は、きょとんとした。 うはぁ、全方向隙なしレベルの美人は、不意を突かれてもやっぱり崩れないんだな。 長いまつげをぱしぱしと瞬かせて、無表情に俺の名前を繰り返す。 なんだろう、俺は会ったことはないと思うんだけど。 こんな美形、一回会ったらそうそう忘れられない。 「しろた」 「はい。白田有理です。これからよろしくお願いします」  俺が改めてフルネームで名乗ると、貴重であろうきょとん顔はどこかに消えてしまった。 「ああ、失礼しました。しろたさんって、ファミリーネームでしたか。ファーストネームを名乗られたのかと思って、どう反応するべきか迷ってしまいました」  容姿はそこらの芸能人なんかより遥かに洗練されていて、まさに「美しい人」だったけれど、微笑んだその姿は、さらに華麗な花が咲いたようで、その場がぱっと華やいだ。 ……俺が何を言いたいのかと言うと、つまり、初対面一分足らずで、俺は恋に落ちた。 とっぷん、と見事にはまった。 だって、こんな綺麗な人。惚れるなってのが無理な話だ。 色恋ボケと、笑わば笑え。 俺は、本気だ。 しかしまあそんな俺の心中なんぞ伝わるわけもなく、部長は笑顔のまま俺に白く美しい右手を差し出す。 「城崎です。ようこそ、法人事業部へ。白田有理さん、貴方の活躍を期待しています」  え、いやもうなんでそんな、握手とかしちゃっていいんですかちょっと待ってください心の準備が、あ、すごい手汗かいてるし……っ! ひーっ! ……『俺は、本気だ』。 なんてカッコつけたばかりで情けないが、許してほしい。 本気なのは間違いないんだけれど、それを上回る勢いで、俺へたれなんだ。うん。 部長にはどうか黙っといてほしい。
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