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「あの日は、娘のおもちゃや私の身の回りのものを取りにあの家に行ってたの。その間夫は、私が他のものまで持ち出さないようわざわざ見張ってた」
奥さん――ややこしいけど便宜的にこう呼ばせてもらおう――が、意外と骨格のしっかりした肩をすくめる。
「お昼どきになって、高橋は自分の分だけおたくの店から出前をとったの。クーポンがあるからって。ほんっとケチよね、いくら調停中だからって自分の分だけ頼むとか。先が思いやられる」
軽く頭を振ると、
「これでわかったでしょ? 奥さんだの事実婚だのっていうのは、遠藤が勝手に言ってるだけ」
奥さんが私の顔を見下ろした。
「だけどそれって、奥様の……じゃなくて、ええと、そちらさまのお仕事のためって」
遠藤さんへのあまりに冷たい言葉に、私はつい彼の肩を持つような言い方になる。
「ふーん」
奥さんがクールな奥二重の目を細めた。
「さっさと高橋と別れて、子ども連れて遠藤と再婚しろってこと?」
「そんな」
答えに困った私に、
「冗談じゃないわよ。なんでされた側が、した側の言い分飲まなきゃいけないわけ?」
奥さんが眉間にしわを寄せた。
「徹底的に闘うわよ、ちゃんと取れるもの取るまで。あたりまえでしょ」
「……ですよね」
仕方なくうなずきながら、
(なんで私、こんな話聞かされてるのー?)
私は内心半泣きになる。
しかし、これは確かに先が長そうだ、離婚調停。
「無理よ、遠藤とは」
そのとき、ぽつりと奥さんが言った。
「信じられる? あの人、何も知らないのよ。私が結婚してることも、もちろん子どものことも。ちょっと調べればわかるのに」
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