Ⅲ 二組目

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 翌日の午後、出前の容器の回収のために、私はふたたび高橋邸を訪れていた。  ショッピングバッグに入れられ門の脇に置かれていた器を手に取り、インターホンは押さずバイクに戻りかけた私に、 「ねえ、おそば屋さん」  突然、後ろから声がかかった。 「はい」  振り向くと、思いのほか近い位置に知らない女性が立っていて、思わず私は後ずさりした。 「二人分だった? 出前」  近所の方だろうか。スポーツウェアを着たどことなくだらしない雰囲気の中年女性が、ニヤニヤしながら私の顔をのぞきこむ。 「ええと」  返事に困った私に、女性が顔を近づけた。 「有名なのよお、この家。旦那の不倫で、奥さんが子ども連れて出てっちゃって。今は旦那がひとり暮らしのはずなんだけどさ」 「はあ」 (一人前だったな、注文は)  だからといって、お客様のことをしゃべるわけにはいかない。  それに、あの人影と珍しい車は……。 「いったい誰を引っ張り込んでんだかねえ」  なぜか得意げな顔で言うと、女性はふらりと立ち去った。 (……どういうこと?)  女性と別れ、店へとバイクを走らせながら、私は眉をひそめた。  変な人につかまったせいで、昨日の窓辺の人影と車庫にあった車のことが頭から離れない。 (まさか、ダブル不倫? あの遠藤さんの奥さんが、高橋さんと)  共にすらっとしておしゃれな、遠藤さんの奥さんと高橋さん。夫婦は似てくるっていうけど、あのふたりは……。 (考えちゃダメだ、こんなこと。大事なお得意様に)  ヘルメットの下で、私はきゅっと唇を結んだ。
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