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Ⅰ 大忙しの元日
お正月らしく雲ひとつなかった青空は、藍色とオレンジの夕暮れ色に変わりかけている。
「お疲れさまでしたー」
元日も営業しているありがたい某ファストフード店で、私はテーブルの向こうの達也さんに頭を下げた。
「……さすがに疲れたな」
鋭い目を細めて、達也さんが私の頭にぽんと手を置く。
「明日香も、お疲れさん」
濃い眉と切れ長の目の下にはクマが。昨夜はまともに寝てないもんね。
大晦日だった昨日は、私たちの小さなおそば屋さんにもたくさんのお客様が来てくださった。息つく間もなく年越しそばをお出しして、最後のお客様を送り出し片付けをしてようやく店を出たのは、とっくに日付が、というより年が変わった時刻。
店長の達也さんやバイトさんたちと「明けましておめでとう」「一年間ありがとう」と言い合って別れ、私はタクシーで実家へ帰った。
一方の達也さんはといえば、店と同じ市内にあるアパートで少し仮眠をとったあと、昼前には電車で三十分ほどかかる私の実家に来て、両親に私の交際相手として挨拶してくれたのだ。
二十六の私なら一晩くらいのオールは平気だけど、もうすぐ三十六になる達也さんは正直しんどいと思う。そうでなくても、毎日のそば打ちや大きな鍋の扱いで最近腰がやばそうだし。
実家でのイベントを済ませた私たちは、次の用事のために達也さんの部屋に近いこの駅に移動したところで、目の前にあったこの店で一息入れようということになったのだった。
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