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「マコトさん、こんなアンケートが役所から届いてたわ」
最愛の妻から一枚の紙を手渡された立野マコトは、その文面を見て「なんだこれ」と苦笑した。
「ねえ、なんのアンケート?」
妻はマコトの肩越しにそのアンケートを覗き見る。
朝も夜も変わらずにべったりと寄り添ってくる妻の姿に、マコトは内心ドキドキしながらも何食わぬ顔で答えた。
「幸せ調査アンケートだって。今の生活が幸せかどうかを5段階で評価して送ってくれだとさ」
「なあに、それ? それが国の仕事なの?」
妻はあきれたように言う。
「全国民を対象にした調査らしい。バカバカしい、こんなのでいくら税金を使ってるんだ」
「ほんとね。こんな調査をするくらいだったら、もう少し社会福祉を充実させてほしいわ」
マコトは憤りながらも、「ものすごく幸せ」に〇をして返信用封筒に入れた。
「じゃあ、いってくる」
革靴を履き、ビジネスバッグを手に持つと、玄関先で見送る妻に軽くキスをした。
「いってらっしゃい、あなた」
「ああ、今日は遅くなる。大事な取引があるから。だから先に寝ててくれ」
「そう? じゃあ、あなたが帰ってくるまで起きて待ってるわね」
「おいおい、聞いてなかったのかい? 今日は遅くなるから先に寝てろって」
「いやよ、あなたと一緒じゃなきゃ寂しくて眠れないもの」
マコトは「やれやれ」と肩をすくめた。
「じゃあ、なるべく早く帰ってくるよ。ちゃんと起きて待ってるんだよ?」
「うふふ、わかったわ。今夜も楽しみましょうね」
「ああ、そうだね」
ニヤニヤしながらもう一度口づけをかわして家を出るマコト。
同じように、彼の家の隣から一人の会社員が玄関から出てきた。
目元まですっぽりとおさまったヘルメットをかぶり、「いってくる」と誰もいない玄関先に向かって手を振る男。
そのさらに向こう側では、同じようにヘルメットをかぶった男が誰もいない空間に口を突きだして幸せそうな笑みを浮かべていた。
西暦2100年。
世帯ごとの独身者の割合はすでに既婚者を上回っており、世の中はバーチャルで作りだしたパートナーで満足する世界へと変わっていた。
そのため、少子高齢化の波は急速に拡大していた。
今や日本の人口は5000万人を下回っている。
余談だが、国が行った幸せ調査アンケートでは独身者のほうが圧倒的に「幸せ」なのであった。
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