119.雇い主には逆らえない

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119.雇い主には逆らえない

「そういえばエリカさんはどうしているの?」  みんなで仲良くスッキリした後、日葵が疑問を投げかけてきた。  エリカは現在俺んちで居候しているからな。この場にいないことが不思議なのだろう。 「昨日は帰ってこなかったんだ。エリカに行動を逐一報告してもらっているわけでもないしな。俺を気遣って一人にしてくれたのか、それとも用事でもあったのか。こういう日もあるだろうよ」 「放任主義なのね」 「別に俺はあいつの保護者ってわけでもないからな」  むしろ保護者ぶられているまである。  その割に自由にしていたりするからな。甘えられたい時は甘えさせてくれて、好きなこともする。優しいお姉さんが少しだけ猫っぽい感じがした。 「エリカさんにもここにいるとは連絡していますので、心配はしていないと思いますよ」 「梨乃は気が利くぜ」 「えへへ。もっと撫でてください♡」  梨乃を褒めながら頭を撫でてやれば、お気に召したようでふわふわの緑髪を押しつけてきた。控えめな外見の割にぐいぐいくるよね。 「あなたたち……元気ねぇ」  おしゃべりする俺たちを眺めながら、さなえはそんなことを言った。  そのさなえはといえばぐったりとしていた。どうやらお疲れらしい。 「誰のせいでこうなったと思っているのよっ。あんなに激しくして……夜もすごかったのに、こんなの初めてよ……」 「これが若さかしら……」と呟く美女。しかし口元は満足感を隠し切れてはいなかった。  娘よりは体力がなかったが、それでも最後まで楽しんでいるように見えた。それにほら、ぐっすり眠っている金髪ギャルよりは体力があると思うぞ。 「まったく、今日が休みだったから良かったけれど……」  さなえがのそのそと起き上がってスマホを確認する。今何時だ? 「っ!?」  スマホの画面を目にした瞬間、さなえが慌てて立ち上がった。ぷるんと揺れる女の部分に、俺の男の部分まで立ち上がりそうになった。 「も、申し訳ございませんっ! はい……そ、その……寝ていて気付かなかっただけで……う、後ろめたいことはありませんっ!」  メッセージか着信でもあったのだろう。焦った調子で電話をしながら廊下へと出て行ってしまった。 「大人は大変だなぁ」 「ですね。お母さんは電話する時にいつもバタバタしていますから」 「さなえさん、いつも忙しそうだったものね。私が遊びに来た時も仕事に行くことが多かった気がするわ」  のんびりとする俺たちは学生。改めて夏休みは最高だと身に染みる。  こんな爛れた一日を送っても、誰からも文句を言われることもない。時間に追われないのは今だけかもしれない。この幸せな時間をしっかりと享受させてもらうとしよう。 「んー……晃生ー……元気すぎだってばぁ♡」  羽彩の気持ち良さそうな寝言を聞いて、俺たちは微笑ましくなってくすくすと笑ったのだった。 「あ、あのー……晃生くん?」 「なんだ?」  電話を終えて戻ってきたさなえは、言いづらそうに俺に声をかけてきた。 「そ、その……夏祭りに行かないかしら?」 「音無先輩に俺を誘うようにって命令されたか?」 「あ、いや、そ、その……」  わかりやすいなぁ。こういう可愛いところが信頼できるところでもあるけどな。 「まあ良いぜ。さなえの顔を立ててやるためにも、行ってやるよ」  昨晩の謎行動。音無先輩は俺に罪悪感を持っているらしかったが、何をしたいのかは全然わからなかった。  何か話したいことでもあるのか……。変に周りをウロチョロされても困る。俺に話があるってんなら乗ってやろうじゃねえか。  日葵と梨乃の肩を抱く。二人から甘い声が漏れた。 「もちろん、俺の女も行って良いんだよな?」  音無先輩が罪の意識から俺に身体を差し出そうってんなら、そんなのは必要ない。俺には最高の女がたくさんいるからな。本当にそのつもりだったら見せつけてやるだけだ。 「え、ええ……。でも、私との関係はまだ秘密にして……ね?」  さなえは目を逸らしながらお願いしてくる。  雇い主である音無先輩には俺との関係を知られたくはないのだろう。何をされるかわかったもんじゃないしな。  でも、そういう頼み方をされると、俺の中に眠る竿役が起きてしまうではないか。 「そうか。秘密にしてほしいならどうすれば良いのか……わかっているよな?」 「ちょっ……! も、もうっ、仕方がないわね……♡」  さなえとの関係を秘密にする。その約束を守るためにスッキリさせてもらった。 「あんっ♡ お、お祭りは……今夜だからぁ♡」 「今夜っ!?」  そんなわけで、慌ただしく準備するはめになったのであった。
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