第一章:本命チョコレートを贈りたいのは

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第一章:本命チョコレートを贈りたいのは

 いちごみるく色に染まる夕空に舞い降るは、甘い粉砂糖色の雪。  今日と同じ甘く優しい雪が、あと三日は続くことを、私達は切実に祈る。  さすれば私達の願いは叶う、と錯覚するほどに。  「ねぇ。やっぱり”本命”には、手作りがいいかなあ?」  季節は、まだ少し肌寒いバレンタイン。  上品な甘い芳香が充満する駅地下の一角に設けられた、バレンタインフェアコーナー。  彩り豊かな宝石と薫り高い花のようなチョコの甘き輝き、バレンタインの魔力に魅了された人波で溢れかえる。  色とりどりの果実や花が実り咲いた、チョコレートの花園。  甘く澄んだ飴菓子の結晶とチョコの鉱石。  虹のパステルカラーに彩られた綿飴(コットン・キャンディ)チョコレート。  大人気の非公認キャラや世界遺産の建造物を模した、ユニークなチョコ。  ほろ苦くもなめらかな風味を溶かし固めた、タブレットショコラ。  高純なカカオや抹茶の蕩ける生チョコ、芳醇な洋酒・日本酒を閉じ込めたボンボンショコラ。  若い年代の好むインスタ映えの手頃なチョコから、薫り高い古典的(クラシック)な高級チョコまで。  多種多様なチョコレートを目前に、私立雪紅高校の女子生徒三人組は、仲睦まじく話しながら目を輝かせていた。  「ええ、今時手作りは重くない? それにゆっぺに本気チョコを作れるテクなんかあったっけ?」  「あー! ひどいんだ~。美奈子だって、去年デパ地下の高すぎるチョコで気合い入れて引かれてたじゃん」  「あー、あれはもうなし! 高級チョコの味が分からない奴はこっちから願い下げだから」  「手作りと高級チョコ、はどっちにする?」  実は大学の推薦試験を目前に控えた高校二年生という現実を忘れて、本命チョコの話題に華やぐ女子高生達。  凝った手作りチョコ、高価なブランドチョコ。  どちらが相手に喜ばれやすく、一方でどちらのリスクダメージが大きいのかでヒートアップしている友達の隣で、桜井(さくらい)紅子(べにこ)は苦笑で応えた。  「え? 私はいつも通り手作りでいいかなって思う」  「ええ!? じゃあ、紅は今年も友チョコと家族チョコなの?」  「うん。まあお母さんのリクエストチョコは買うよ」 ・
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