後奉り

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バックコーラスを奏でるように降りしきるシャンデリアの煌めきの下。 本来ならばパーティー会場を盛り立てる艶やかな楽器の演奏が行われ、華やかな舞踏会の時間が繰り広げられていたであろう。 しかしこのような場にて空気を読まずに演奏する演奏家などいるはずもなく。 ただただシャンデリアだけが無機質な光の音響を奏でている。 そんな中、お決まりのセリフが響くのだ。 「シルヴィ・アン」 それが私の名前。流れるような銀髪に美しいサファイアブルーの瞳。しかし、ツリ目。悪女のごとく吊っている。そのせいかキツい性格だの恐いだの言われてきた。貴族令嬢特有の白磁の肌も、華奢な四肢も、しなやかな身のこなしも褒められること千万。しかしただひとつ影を落とすのがこのツリ目。 誰に似たんだと私を毛嫌いする父は、この国の公爵閣下。 そして私は今は亡き、公爵閣下の()妻である母に似たのだ。母はそれはそれは美しいひとだった。父はそんなところも、母のツリ目も嫌いだった。しかし政略結婚。公爵家に婿入りするため。公爵の地位を手に入れるだけのために政略結婚を受け入れた。だからこそか、母が儚くなった……その前……ずっと前から罪を犯していた。 それはまるで私のせいだと言わんばかりの言いように、だいぶ荒れた。いわゆる反抗期のようなもの。しかし今は……疲れたのだ。 この日、そのために用意されたようなパーティー会場のダンスホールの中央にて。 ダンスを踊るペアなどいるはずもなく、ヒロインたちを飾り立てるのに打ってつけの大舞台として……いや、まるでそのために用意されたダンスホールのごとく、()にはまっていた。 ほんと……挿し絵通りと言うか……なんと言うか。 私は……私の名を呼んだそのひとの姿に不思議な光景を脳裏に映した。 まるで、このダンスホールと言う場、今日と言う日に蘇ることが決まっていたかのように、懐かしく、鮮明な…… ――――――前世の記憶。地球と言う惑星(ほし)の、日本で育った記憶。そしてまさにこの断罪劇が行われる乙女ゲームが原作だと言う設定の小説。実際にこんな乙女ゲームはない。そう言うゲームがあると言う前提で描かれた、断罪される悪役令嬢シルヴィ・アンの王道逆ざまぁルート……なのだが。しかし全ては遅すぎた。 原作通りシーンなはずなのに、原作通りではない。 本来であれば私は幼い頃に記憶を取り戻し、幼き日に王命により婚約者となった第2王子を見限る。そして彼を攻略しないルートを選び、物語のヒロインであるミルキス・アンに対抗すべく、第1王子を味方にしてこの2人に逆ざまぁを仕掛けなくてはならなかった。 しかし思い出したのがこのタイミング。何の逆ざまぁの準備もない。 「シルヴィ・アン。私、アルノルト・フューチャーは」 それが目の前の王子の名前。私の婚約者である第2王子であり、公爵家に婿入りするはずの男。漆黒の髪にルビーの瞳を持つ超美人。顔だけは……タイプだったから。今までの私は彼の気を引くことに必死だった。そのためには何でもやった。そうすれば本当の愛のある夫婦になれると……本気で思っていたの。 家族に愛されない私にとっての、希望、憧れ、全てが込められた……特別な存在だった。 けれど、彼が私を愛することはない。彼は堂々と浮気をして私を断罪する【敵】なのだ。 だから……婚約者が未だいない第1王子にとっとと鞍替えするべきであった。 現在外遊中の彼は、私に片思いをしているからこそ、王太子と言う身の上なのに未だ婚約者がいない。また、公爵家を継げるのは私()()だからゆえ、王太子である自分は私を(めと)れないことを気にしていた。 原作では傍系に公爵位を譲り、将来は私と第1王子の次男以下を後継者とすることで落ち着いたはずだ。 しかし第1王子を攻略していなかった以上、第1王子は予定どおり外遊中で、終わるまで戻ってこない。 戻って来るまでに、私、生きていられるのかしら。それが……一番の問題である。 どうせこの後はお決まりの、なのだから。 その証拠に、彼の、アルノルトの腕の中にはいかにもなヒロインがおさまっている。 原作どおりのヒロイン。本来は逆ざまぁされるはずが、私が記憶を取り戻さず悪役令嬢道を邁進したせいで、正ヒロインとしてのしあがってしまった少女。その名はもちろん……ミルキス・アン。ふわっふわのハニーブラウンの髪に、くりくりぱっちりかわいらしいエメラルドグリーンの瞳。そんな瞳にうるうるされると、男ならころっと騙され浮気街道まっしぐら。そりゃぁ婚約破棄もするでしょうよ。 父公爵もアルノルトとの婚約をミルキスにすげ替えたいようだった。アルノルトも婚約者をミルキスにすげ替えることで公爵家に婿入りする気なのだろうか。 ……父公爵は公爵家の人間ではない。私が成人して婿養子を迎えるまでの代理公爵なのだ。だから父の隠し子と言うだけでは……無理なのだ。 直系である母の血を引いた私でなくては、公爵家を継ぐ婿養子は取れない。 原作ではそこにも突っ込み、2人を破滅させられた。まぁ、断罪劇逆ざまぁの準備はしていないけど、そこを突っ込めば……イケるだろうか。 母が生きていたころから、父公爵が手を出していた平民の愛人の子であるミルキス。 公爵家の血を引いていないのに、ミルキスの母が儚くなった後に父が養女に迎え、公爵家の姓を名乗らせている。だが本来は公爵家の姓を名乗る資格がないので、彼女の身分は戸籍上平民で、姓が与えられないはずの娘。一応父の養女だが、公爵家の養女ではない。 だからこそ、国も貴族社会も公爵家の人間とは扱わないはず……だった。 しかし彼女が類いまれなる聖女の力を発現させたことで、状況が変わった。 公爵家の養女として認められるかもと言う希望が生まれたのだ。しかしそれは、本来の直系である私が認めなくては無理なこと。しかし反抗期真っ盛りだった私が認めるはずもなかったので、父公爵は自分の意見を押しきった。 そんなものには何の意味もないのだが。 しかし貴族社会は彼女は公爵家の人間とは見なされないことを知りつつも、聖女にしっぽを振ることは利があるかもしれないと考え、彼女が公爵家の姓を無断で名乗ることを見て見ぬふりをした。 ――――――第1王子の前以外では。 この国でまともなのは、第1王子だけだ。 だからこそ、彼と言う味方が必要だった。この断罪劇をはね()け、生き延びるための、唯一のキーマンだったのに……。 彼のいない断罪劇は……とどまることを知らない。 「貴様との婚約を、破棄……」 ほら、破棄。 「破棄……」 破棄、するんでしょ……?ちょっと……。あのー……続きは……。 「破棄ぃ…、」 え?ちょ……あの、まさか直前になって恐くなったとかじゃないわよね……? 「あ、アル……?」 ほら、ヒロインの座を乗っ取ったミルキスもそう言ってるわよ。 「う……うぅ……うるっせえぇぇぇぇぇ――――――――――――っ!!!」 ひゃ……っ!?アルノルトが急に大声で怒鳴った!?ちょ……それはキャラ的に違わないかしら……!? しかも先程まで腕の中に抱いていたミルキスを乱暴に突き飛ばしたのだ。 「きゃっ!?アル!?何でこんな酷いことを……っ」 「うるせぇっ!てめぇに【アル】なんて呼ばれたかねぇよ、このアバズレが……っ!」 「ひ、酷い……」 まぁ、確かに王子らしくない酷い言葉の羅列ね。 アルノルト殿下らしくもないわ。 「あぁぁぁぁ――――――――――――っ!!!」 そして頭をかきむしりながら、アルノルトは……。 猛ダッシュでパーティー会場から……逃げた。 逃げ出した。 逃亡した。 あまりのことに、みな、反応するのが遅れた。集まった貴族たちも、この場で彼の護衛を勤めるはずの近衛騎士たちも、ヒロインたちもだ。 だって……まさか、逃げるとは思っていないもの……!断罪劇の、逆ざまぁ要員なのに!今この場ではミルキスゲットで勝者に登り詰めるはずだった男が……何故。 しかし、主役が逃亡した断罪劇。さすがにお開きかと思えば……違った。 「あ、アル……どうして……でも私、ひとりだってあなたを断罪してみせる!」 何言ってるのかしら、この子。 「ミルキス!君はひとりじゃない!」 「そうだ、ぼくたちがついている!」 「アルの分も一緒に、断罪するんだ……!ぼくがアルの権利を引き継ぐ!」 いや、無理でしょ。勝手に王子の権利引き継ぐとか……! 不敬罪?それとも偽証罪!? いずれにしてもろくなことにならないやつ!せめて追っかけて許可とりなさいよ! しかし、この断罪劇会場からは容易には逃れられないのも、シナリオの強制力なのかしら。 ヒロイン逆ハーレム衆の伯爵令息、騎士団長の息子、宰相の息子に支えられながら、ミルキスが立ち上がる。 「あなたには、公爵令嬢であり聖女の私を長年に渡り虐げたとして、極刑を命じます!」 ……。聖女では……あるけれど。公爵令嬢ではないのだけど。 そして聖女なだけの平民のあなたに、本物の公爵令嬢である私を極刑に処す権利がどこにあるのかしら。しかし原作の強制力は強烈なようで。 ミルキスがオペラ歌手のように挙げていく私の罪の数々に周囲はどっと沸き立ち、盛り上りを見せる。 主役のひとりは逃亡したが、強制力から逃れることは、やはり不可能なようだ。 ――――――やっぱりキーマンの第1王子がいないからだろうか……。 この強制力からは……逃れられない……。 私は王城の牢にぶちこまれた。まぁ原作では第1王子と共に陛下も怒ってらしたけど……どうなるのかしら。 明日起きたら……せめて陛下くらいは目を覚ましていてほしいと思う。それが不可なら……死に戻りとかループルート、あるかしら。 あったら……いいなぁ……。 続きは目覚まし時計が鳴る頃に……起きてから考えるとしようか。 ※※※ ジリリリリ…… 短いアラーム音と共に、朝が来たことを悟……悟……れない。 何ここ!?ま、真っ暗……っ!? しかも何これ、私、何かの中にいる!?狭い中に閉じ込められている!? まさかこれ、か、か、 か…… 棺桶えぇぇぇぇっ!? 棺桶なの!?いや、この展開は確実に棺桶よね!?え、何で!? まさか私……寝ている間に処刑されたの?うそ、マジで。せめて起こしなさいよ……!寝ている間になんて卑怯だわ。しかも棺桶の中ってことは葬儀も済ませて埋葬された後ってことおぉぉっ!? 見事にシナリオ通りに破滅して牢屋にぶちこまれた悪役令嬢罪人のためにお通夜とか、お別れ会とかあるわけないし。そもそもこっちの世界にそんなのあるわきゃないわよ。 ……と、言うことは私は土の中。この世界、土葬か風葬が一般的だもの!風葬はそのまま、城壁かなんかに野ざらしに吊るされる方法よぉ~~……。 むしろよくそれにならなかったな、私。 それだけは救いだけど。土葬されて棺桶の中だってのに、私、生きてる。てか生き埋め。 私もう土の中。ガタガタ動いてみてもうんともすんとも言わない狭い棺桶の中。 叫ぶべきか。しかし叫べば土の中棺桶の中酸欠になるかもしれない。てか、土の外に声届くのかしら。憐れにも寝ている間に処刑されて埋められた私が打ち捨てられた墓地なんて、きっと普段はひとも寄り付かない寂れた墓地に決まってるじゃない……。叫んだところで……誰も来ないわ。 こんなことなら…… こんなことなら是が非でも寝るんじゃなかった!でも仕方がないじゃない、だって眠かったんだもの……!寝たっていいじゃない……! ――――――せめて、今生と前世の記憶維持したままループしてくれないかしら。死に戻りに失敗した私のために、チャンスをくれないかしら、神よ。 あ、でも、餓死か酸欠で死ぬ苦しさのトコだけは……。 ……(はぶ)いてほしい。 私はそっと目を閉じ、その時を待つ。ループ……ループ……やり直しやり直し、テンプレテンプレテンプレ……あぁ、神よ…… 神…… ウィ~~~ン…… カパッ ん……? 「ん、あれ……?」 光が、射し込んでくる……。しかも棺桶に備え付けられている小窓からの小さな光じゃないの。身体全体を光で照らす、神々しい光だわ。 ――――――いや、その前に、カパッて言う前に変な音しなかったかしら。んん、光が眩しくてよく見えないけれど、ひとかげが……ある。 そうだ……いるじゃないか。こんな私にも、会いに来てくれるだろうひとが! 迎えに来てくれる……せめて墓参りにくらい来てくれるひとが……!そして何を思ったのか、掘り起こしてくれたんだわ!私の棺桶!そして小窓とは言わず棺桶の蓋ごと堂々と開けてくれるだなんて……。 まさか……まさか本当に……。 やっぱりあなたは……小説のヒーローなのね。第1王子殿下……クラウスさま……。 そして、実は生きていた私と感動の再会を……。 光の中のひとかげが、目が光に慣れてくるのと同時にはっきりしてくる。しかし、夢見ていたひとかげと……ちょっと違うような……? クラウスさまって、ミルクティー色の髪ではなかったか。何だか黒っぽい……上に赤目……。 え……? 「は……?」 ひとかげをくっきりと判別できるようになり、目を見開けば。そこにいたのは……。 「何で……何であなたが……!?」 「あぁ、シルヴィ、やっと会えたね」 「はい??」 私に向かって微笑みを向けたその男は……。 「アルノルト……殿下?」 まさかの断罪劇からトンズラした元婚約者――――――。いや、破棄まではされていないから、元、ではないのかしら。てかその婚約まだ生きてるのかしら。 「シルヴィ。どうか、アルと呼んでくれ」 やっぱり逃亡したアルノルト殿下ぁ――――――っ。てか、『アル』って。ミルキスに呼ばれるのあんなにいやがっていたじゃない!今まではミルキスに『アル』って呼ばれてデレデレしてたくせに、婚約破棄パーティーではめちゃくちゃ毛嫌いしてたじゃない!私には愛称も呼ばせなかったくせに……ほんと何で……!? しかも……、気になることが色々とあるのだが。 「あの、本当にアルノルトでん……」 「アルだ、シルヴィ。あとぼくはもう、『殿下』じゃない」 殿下じゃないって……クラウスさまを差し置いてあの浮気バカが王になれるはずはないわよね。なら……ミルキスとバカをやって王族クビになって、平民送りになったのかしら。 それにしては、今までのアルノルト殿下じゃないような穏やかな笑みを讃えているし……。 「その、格好は?」 前はもっと……いかにもな王子コスプレではなかったかしら。ヒラヒラフリル満載、宝石のブローチが輝いていたというのに。 今は黒いコート、黒いトップス黒ずくめである。アルノルト……アルに手を差し伸べられ、仕方なくその手を取って起き上がってみても、やっぱり上から下まで黒。コートも黒のロングコートじゃない。何かダークヒーローみたいよね。 実際は逃亡ヒーローなのに。 それに……。 「ここ、どこ?」 収監されたのは貴族用の牢だったから、簡素な個室のようなところで、ベッドと目覚まし時計は備え付け、あとトイレとバスルームつき。それだけの無機質な空間。だったのだが……。 ここはもっと無機質。壁一面、天井も床までも白。白。白。 何もない。模様すらない。天井と壁の継ぎ目すらよくわからない。 さらに私が横たわっていたものは、棺桶……とはちょっと違う。 「何なのかしら、この未来の叡智の結晶みたいな、コールドスリープ機みたいなハイテク感溢れる代物は」 「さすがはシルヴィだね。シルヴィ()地球からの転生者であることは分かっている」 「……()って……まさかあなたも……!?」 「そうだよ、ぼくもあの断罪劇の時に前世の記憶……地球での記憶を取り戻したんだ」 「うそ……」 あなたまで転生者だったなんて、なんてこと……。じゃぁ、逃亡したのもそれに関わっているのかしら? 「目の前にいたのは……読んでいた小説に出てくる大好きだったシルヴィ」 「は、はぁ……」 あなたも読んでいたのね……。そして、私のこと好きだったの……? 「だから必死に抗おうとしたけれど、原作の強制力がぼくを縛りつけ、シルヴィへの愛を叫べなかった……。だからこそ、ぼくは……」 「アル……?」 「逃げた……」 「……そうね」 あの逃亡はそう言うことだったの。 「でも、何がどうなってこうなってるのよ」 「それはね、実際に見てくれた方が早いよ!さぁ、シルヴィ、おいで」 実際に見ればって……何を……? アルに差し伸べられた手をとり、ゆっくりと立ち上がり、白い空間を歩けば。不意にアルが立ち止まり、何もない白い空間に手を翳す。 するとスペースシャトルの扉のようなものが浮かび上がり、そして……ウィーンと開いた。 あの……何かSFじみているのだけど。この世界の世界観、なんちゃってヨーロッパよね……? しかし私の予想を裏切り、扉の向こうへアルと共に足を踏み出せばそこは……。 白い空間が霧散し、植物に覆われた廃墟が立ち並んでいたものの、不思議と不気味さはない。 ひとけのない、ひとの生活圏が自然に還ったかのような……感覚。 でもあの廃墟のかたち、どっかで見覚えがあるような……? 「……城?」 いやー、まさかね。一晩で城がこんな廃墟になるわけないじゃないの。 「よく分かったね、シルヴィ!」 えぇぇっ!?マジなのぉぉっ!? 「ここはシルヴィがコールドスリープについて、1000年後の世界」 は?せん、ねん? 1000年経っても骨組みが残っていることが科学的にあり得るのかどうかは、今はおいておきましょう。ここはファンタジーの世界よ。あと本題はまだ先。 「いや、待って。その前に何で私コールドスリープについてるの」 「神を脅したら、目覚めるのが1000年後でよければと、地球で流行りのコールドスリープ機を導入してくれたんだ」 「地球でも流行ってないわよ。流行ってるのは空想の世界でだけよ。あと、1000年経ってるのなら……もしかしてあなたも……?」 服装は様変わりしているし、雰囲気もどこか王子と言うよりも野性味溢れたインテリみたいになってるけど。 「いや、ぼくは1000年この姿で生きてきた」 「いや、人間がそんなことできるわけ……」 「人間じゃなくなったからね」 「……は?じゃぁまさか魔物化……いえ、魔物でも1000年は生きないわよね。まさか……幽霊……っ」 「違うよ。ぼくはね、この世界の神になったんだ」 「……はい?」 「君と愛し合うため、シナリオの強制力をぶっ壊すために、神になったんだよ」 「はいぃぃぃぃっ!?いや、神って……もとの神さまはどこ行ったのよ!」 「神殺しの剣を使って殺してきた」 「何やってんのよ、あんた。てか、そんなのよく手に入れられたわね」 「うちの王家の秘宝だよ。まずはコールドスリープ機作らせて、それから神殺しの剣で仕留めて……」 「鬼畜すぎる……せっかく容易してくれた神さまにたいして良心はないの?」 「あるわけないよ。せっかくシルヴィと同じ世界に生まれたのに原作の強制力やらなんやらで、シルヴィを愛でられなかった!本当はロリシルヴィから溺愛したかったのに!」 「ロリ……はどうかとも思うけれど……続きを聞きましょうか?」 「しかも強制力とやらに引っ張られて、あのままシルヴィを断罪するルートしかない!あぁ、これはヒロインが神におねだりしてチートしたから、上手くシルヴィが記憶を取り戻して逆ざまぁをできなかったわけ!でもさすがに、シルヴィの原作シナリオを抑えられるのもあの断罪の場までだったようで、あの時記憶が蘇ったんだよ」 「そう言うことだったの……じゃぁ、アルは?」 原作にはアルまで前世の記憶を取り戻すなんて設定はなかったはずよね。 「ヒロインがチートしすぎた弊害。あとは多分シルヴィLOVEの俺の執念」 段々地が出てない?一人称変わったわよ。 「だから、せっかくのシルヴィとのいちゃらぶルートを潰してヒロインに加担した神は……粛清しておいた」 「……あんた……いや、その、あんたの病み具合は何となく分かってきたけどね。それであんたが神になって、何で私は1000年眠ったままだったのよ」 見た目年齢的にあまり変わってないってことは、あの断罪劇からそう遠くないうちに神になったと言うこと……だと思うのだけど。 「シルヴィには、美しい世界を見せてあげたかった」 まぁ……何と言うか、廃墟だけどもどこか美しく思えるのは……分かる。 「だから、全員殺すのに手間がかかったんだ」 「……は?全員って……誰を……?」 「まずは原作でシルヴィに懸想してシルヴィと俺を引き剥がすクソクラウスを処刑した」 あの……それあなたのお兄さまじゃない。私の唯一の味方な何してくれたのよ。 「そしてシルヴィと俺を引き剥がし、俺とヒロインを結ばせようとする父上」 陛下もヤッたんか。ヤッたんか、こいつ。因みに王妃さまはアルが幼い頃に還らぬひととなっている。 「あとはクソ公爵その他公爵家NPC」 え……NPCって。まぁ、分からなくもないけれど。このひと、前世ではゲーム脳だったのだろうか。少なくとも今はそのはずである。なお、公爵については特に賛成も反対もないわ。 「あと、いろいろ虐殺した。王都を魔物の大群に襲わせて、弱ったところでヒロインとその愚かな子分どもも撲殺した」 「……あんた……」 子分って、あの伯爵令息たちよね……。 しかし……ヒロインといちゃこらしていたのに、その語り口には何のためらいもなく、さらに瞳孔が開き気味なのだけど。しかも少し縦長に見えたような…、。気のせいかしら。 「あと、色々と滅ぼした。自ら手を下したこともあるけど、大抵は魔物の大群で大陸中を蹂躙した。聖女も殺したし、勇者召喚とかは神として拒否したよ。でも人間の生存本能は恐ろしい。……人類を完璧に滅ぼすのに、1000年かかった」 「は……人類を……?」 「そう、この地上にはすでに、人類は存在しない。存在するのは神と、魔物と、獣のみ」 「あ、いや、待って。私は…、私は人間よね」 つまり、この世界で唯一の人間のはず。 「……いや、シルヴィ、君はぼくの女神だから。君を次の神にしたんだ!おめでとう!ここは……ここはぼくと君だけの、神の楽園だよ……?」 私の手を両手で握り、ニタリと笑んだアル。 その顔には、人間のアルでも、前世のアルでも、神でもない。おぞましいものの姿が映し出されていた。 けれど逃れられない。神をも殺した、人間でもないものに変貌した、頭から角を生やした恐ろしき魔のモノ。人々はそれを何と例えるのかを知らなかったのだろう。けれど私には分かった。 前世の記憶でそう言うものの呼び方を知っていた。 ――――――――――鬼だ。 これは、鬼の残虐な、残虐な、世界を玩具(おもちゃ)にした遊び。 この世界にそれを招き入れてしまったのは……果たして、誰?
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