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それから数年の月日が経ち、Aが何気なくインターネットのオークションサイトを眺めていると、あの盗まれた絵画が30万円で出品されていた。
これにはAも驚きが隠せなかった。すぐに警察に知らせて窃盗犯を炙り出そうとも考えたが、今日まで何一つ成果を上げられなかった連中に失望していたAは絵画を落札することを優先した。
落札においてA以外にも熱心な競売相手が存在し、最初の出品価格30万からあっという間に100万を超え、気が付けば1000万に迫る勢いであった。
表立って言えないが、Aも贋作売買取引でかなりの富を築いている為、たとえ億を超えようとも落札することに執心していた。
1000万を超え、2000万に達した時点でやっと競売相手が折れた為、絵画の落札者はAで決定した。
一週間後、絵画はAの自宅に届いた。送り主の名前や住所は調べてみると全部デタラメであった。
あの日盗まれてからオークションに出品されるまでどのような経緯を辿ったか不明な点ばかり残っているが、結果的にAの元に戻って来たのでそれ以上の追及はしなかった。
上機嫌に絵画を覆っている緩衝シートを剥がそうとしたその時、Aの携帯に一本の連絡が入った。画面には「非通知」の文字があった。
軽く舌打ちをしながらも電話に出ると、ボイスチェンジャーで加工した声でZと名乗る人物からであった。
「貴様、一体何者だ?」
「君が大切にしている絵の制作者だ」
「何、制作者だと?」
「その通り。君のような高尚な理解者に私の作品が大切にされていると風の噂で聞いてな。是非、礼をしたいと思って連絡した」
「おうおう、それは殊勝な心掛けだ。だが安心せい。貴様の作品は終生この私が面倒を見る。恐らく歴史上、最高の芸術品として人類の至宝として刻まれるだろう」
Aは得意気になって緩衝シートを丁寧に剥がし終えると、そこにはあの絵画が現れた。
Aは陶酔したように絵画を眺めていた。
「ああ、そうそう。一つ言い忘れていた」
「何だね一体。今私は鑑賞で忙しいんだ。手短に頼む」
どうせ大したことではないだろう。Aはそう高を括っていた。
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