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「正確には、母親の欄が記入必須だ。世の中には父親がわかんねー子供ってのもいるから、父親の欄が空欄の戸籍自体は作れるんだよ。が、俺は戸籍上男であるせいで、母親の欄に自分の名前が書けねえ。仕方なく自分を父親ってことにしたら母親の欄が空欄になっちまうが、そういう戸籍は作れねえ。父親不明でも産んだ母親がわからないってケースはまずないからなんだろうが」
その場合、医者の診断書を持っていった上でものすごく面倒な手続きをしなければならないという。ようは超法規的に、男性ということになっている俺が母親の欄に名前を書けるようにする、という処置だ。
が、こうなると時間も手間もかかる上、やっぱり周囲に己の性的趣向や体質を全部バラさないといけないような大騒ぎになってしまう。当然、カミングアウトしていないのは蒼佑も同じなので彼にも迷惑がかかってくる。
「あとは……これは多くの事実婚の夫婦の子供と同じ問題なんだけどな。俺が死んだ時、遺産を子供やお前に引き継げない。きちんと結婚してることにしねえといけないのに、俺ら同性はその権利がない。俺が死んだあと俺のマンションにお前が転がり込んでいたら、お前はそのまま追い出されかねない。まあ、こっちは共同名義にしておけば対応できるかもだが」
そう考えると、子供を産むのは手間もデメリットも問題も多すぎるというのがわかる。なんと気が重い話だろう、と俺は思った。
そう、自分達の未来を本当に考えるなら。さっさと中絶して、できるればいっしょに子宮と卵巣も取ってしまった方がいいのである。そうすれば今後、抱き合う時に余計なリスクも抱えなくていいし、癌の心配も減るのだから。
その上。
「医者いわく。元々体が男の俺が子供を産むのは……女が子供を産むより十倍くらいリスクがあるらしい。早い話、死ぬ可能性もめちゃくちゃ高いんだと。なんとか生き延びても……難産になることが多いし、散々苦しんだ挙句ガキが死んじまうなんてこともあるらしくって」
「先輩……」
「そんなわけだから、安牌取るなら中絶した方がいいわけ。……で、蒼佑、お前の意見は?」
「待ってください、先輩」
早口てここまで語ったところで――恋人は、まっすぐに俺の目を見つめて言ったのだった。
「問題点については、おおよそわかりました。僕にも考えはあります。ありますけど……その前に一つ、いいですか?……先輩、僕に意見を求める前にどうして、自分の意見を言わないんですか」
「え」
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