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自分でも、何を言っているのかわからなくなりつつあるのだろう。俺は驚いていた。いつもおっとりしていて、穏やで大人しい蒼佑が。まさか自分との未来を、そんな風に考えていたなんて思ってもみなかったから。
本当は、ずっと苦しかったのだろう――太陽の下で堂々と手を繋ぐこともできない関係が。
家族なのだと、はっきりそう言うことさえできない自分が。
だからこそ、彼は。
「……なんだよ」
俺は、震える声で告げた。
「面倒くせえんだぞ、ってちゃんと伝えたら。お前の方から、中絶しましょうって意見が出るかと思ったのに。お前がそう言うなら、俺もきっと諦めがつくだろうなって思ったのに……」
「じゃあ、先輩は……」
「そりゃ、俺だって、人間だし、怖いし、死にたくないし、いろいろ思うこともあるけど、でも」
くしゃり、と。お腹の上で、シャツを握りしめた。
「会いたい」
絶対にない、あるはずがないと思っていたことが許された。
これが世界に与えられた奇跡でなくてなんだというのだろう。
「くそっ……ふざけんなよなオマエ。俺、オマエのせいで死ぬかもしれないんだぞ。つか、出産とかすげー痛いに決まってんじゃん。帝王切開するにしたって、腹かっさばくんだからそれもそれで後まで痛いって言うし。つか、オマエ、オマエのせいで面倒なトラブルとかいっぱいあって……それでも、俺らのところに来たかったなんて奇特な奴、見捨てたくないだろうがよ……」
「そうですね。本当に奇特な子だと思います」
すすす、と蒼佑は近づいてくると。そっと俺の腹に手をあてて言ったのだった。
「名前、二人でじーっくり決めましょうね。それから先輩……絶対死なないように、体丈夫にするトレーニングとかしましょう」
「俺妊娠中なんだけど!?」
「あ、そうか。じゃあなんかいいサプリとか探しましょうそうしましょう」
「ああもう、適当なこと言いやがって……!」
不安で仕方ないのに、同じだけ嬉しいのは多分。やっぱり俺はどうしようもなく蒼佑が好きで、蒼佑と子供との未来が楽しみで仕方ないからなのだろう。
いつか俺達は、祈りをこめて君の名を呼ぶ。
そして絶対に言うのだ。――愛している、ずっと会いたかったのだ、と。
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