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祈りをこめて、君の名を呼ぶ。
最近ちょっと妙な腹痛が続いている。お腹を下しているわけでもないというのにだ。
そのくせ下腹部にしこりのようなものがあるとなれば、誰だって最悪の可能性を想定するだろう。これ、ひょっとするとひょっとしなくてもヤバイ病気なのではないか?と。
当然のように俺と、俺のパートナーである蒼佑も焦った。元は高校の先輩と後輩。大学生の今に至るまで秘密の関係を続けてきて、既に五年が経過している。俺より蒼佑の方が顔を真っ青にして“さっさと病院に行ってくださいよ先輩!”なんて言うものだから、俺は渋々近くの大学病院に足を運んだのだった。
そして精密検査の結果、言われた言葉がこれだ。
「貴方はフランシア・エル症候群のようです」
「ふらんしあ?……なんですか、それ?」
「一千万人に一人くらいの確率でいるんです。見た目も染色体も精神的にも男性なのに、体内に子宮と卵巣を持っているっていう人が。未だにメカニズムがはっきりしていない、珍しい病気なんですけどね。基本的には体内に女性器があっても生活に支障はないし、一千万人に一人だなんていうのは多くの場合“自分がそうだと気づかずに生涯を終えるから”とされているからなのですが」
「はあ」
なんだ、と俺は安堵した。症候群なんて言ったが、ようは生まれつきの特異体質のようなものではないか、と。
別に体内に子宮があったところで、気づくこともなく健康的な生活が遅れるのなら大して問題はない。確かに俺は男のパートナーこそいる生粋のゲイだが、だからといって子宮だけあっても子供が産めるわけではないのだ(膣があるわけじゃないし、生理もないのだから)。無用の長物だというのなら、機能してなかろうが摘出しようが問題はないだろう。
それこそ癌化するようなリスクがあるなら失くしてしまった方がいいのかもしれない。ちょっと驚いたけどそれだけの話だ――なんて、この時点では思っていたのだが。
「その上でお伝えします。高峰梨衣さん。貴方、妊娠していますよ」
「はい?」
直後、聞き捨てならない爆弾発言が投下。
俺は目を見開くことになったのだった。
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