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会いたい! あなたに会いたいの!
舞は真昼のハイキングコースを突っ走った。仲間はいない。たった一人。しかし、今はその方が有利だった。
紅葉の終わったハイキングコースだったが、今年の晩秋から超有名メロンパン屋がここに開店したのだ。だから、舞の他にも、ハイキングを楽しんでいる人が何人もいた。
しかし、致命的なことに、舞の当てが外れた事が一つ。彼女はそれを補完するため、メロンパン屋を後にし、野原を突っ走る。これだけは譲れないのだ。
何とか日の暮れない内にたどり着く。太陽が西に向かって傾きかけた時だ。目的地まで、あと50メートルを切った!
ドン!
舞は男性と鉢合わせてしまい、ぶつかってすっ転んだ。互いにアラサーってやつだろう。彼女も彼も何とか立ち上がる。
――こんな事やってる場合じゃないのに……!
二人で睨み会ったあと、同じ目的地にむかって、二人で競り合いが始まった。
彼女が彼の頭を鷲掴む。
振り返った彼がチョップ繰り出して来たので、彼女は2回宙返りでかわした。
しばらく二人で悶絶する。ダメージは同じなようだ。
――負けてたまるか!
彼女は目的地に向かって走り出す。
彼が舞のトップスをつかんで、追い抜こうとしてきた。
――なるものか!
彼女が伸身二回ひねりで男性をふり払うと、彼は開脚ムーンサルトで追いすがり、彼女に腹パン。彼女も負けじと彼に腹パン。
二人で悶絶する。やはりダメージは同じ。
それでも二人は走る! あと、20メートルをきった。もうムーンサルトや二回ひねりなど、美しく戦ってる場合じゃない。なりふり構わず男女で醜く争いあう。
彼が頭突きを繰り出してきたので、彼女は金的をお見舞いした。
二人で悶絶する。ダメージは同じ。
また二人で走り出す。
あと3メートル!
舞はあさってを指さした。
「あっ! Gカップ美女がパンモロで歩いてる!」
彼が怯んだ隙に、舞はとうとう一つしかないドアノブをひっつかんだ。あなたに会いたかったの!
くいっ、ジャー。
「ふう……危ない所だったな」
舞がハイキングコース外れのトイレから出るとこの世の終わりのような顔をした、さっきの男性が入れ替わりに飛び込んできた。彼も会いたかったのだろう。トイレに。
「トイレの無い生活って、大変なんだね……。」
「そうだね……」
舞と彼は戦いの中で友情が芽生えてしまい、お互いの手加減のなさに悪態をつきながら、仲良くハイキングコースに戻った。
何でメロンパン屋にトイレが付いてないのか、疑問で仕方がなかったが、初年度はこんなもんだろう。来年に期待だ。
舞は彼にほんのり淡い想いをよせる事になる。これから、3ヶ月後。
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