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「今日もさ、藤木が口うるさくて仕方なくて。なんでアイツはいつも俺ばかり目の敵にして晒上げてくるんだろう。俺の有能さが目に付くのかな」
俺はクローゼットに縛り付けた女の首をグググと両手で絞めつけながら愚痴を吐いた。心配ご無用、女と言ってもコレはただの人形だ。どんなに痛めつけても悲鳴の一つもあげやしない。
最初は悪戯心からだった。等身大の人間を象った物を、それとなく痛めつけたらどんな風に思うのだろうと、試しに殴ってみたらあまりにもスッキリしたものだから癖になってやめられなくなってしまった。頭のどこかでは「このまま続けたら自分のどこかがおかしくなってしまう」と思っていても、一度花咲いた暴力を止めることができなかった。
いつしか、相手は所詮物なのだからいいだろう、藤木のように現実に居る人間に苛立ちをぶつけるよりマシだ、自分はマシな人間なのだと思うようになった。どんなに首を絞めようと、どんなに殴り飛ばそうと、被害はせいぜい人形の体が凹む程度だ。壊れたらやめよう、この女が壊れたらやめよう、そう思ってどれくらいの時が経ったか。
今日も散々気が済むまで人形をなじり終えた俺はふうと一つ息を吐いてクローゼットを閉めた。
クローゼットの向こう側は俺にとっての安息の地、唯一自分を曝け出せる場所。
さて明日は何をしようか。
意識をベッドの上に放置したタブレット端末に向けて思案していると、微かに、誰かが喋る声がする。か細いソレはどうにも俺の耳に入って邪魔で仕方がない。
再び苛々とした気分になった俺は、今にも切れそうな糸を手繰り寄せるように、音の出所を探る。気付いた時にはクローゼットの前に立っていた。
『…明日は…アナタの番…約束よ』
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