夫婦喧嘩

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 手早く買い物を済ませて家に帰ると、母は夕飯の支度をしていた。白いマスクをした横顔に表情はなく、不気味さは一入だった。   私は父が帰宅するなり詰め寄った。母が変になった要因は、父の言動にある事は間違いないからだ。 「謝って」  私は父にそう言った。だけど、父も父で後に引けないのか、母の顔を見るなり「まぁいいんじゃねぇのか」と漏らすだけだった。  その日から母のフェイスマスクをしたままの生活が始まった。家の中にいるときはまだいい。だけど、外に出るときもフェイスマスクをしたまま。私は嫌で嫌で仕方なくって、母に何度も説得を試みていた。だけど母は頑なにフェイスマスクを外そうとはしなかった。  しばらくすると、私の嫌な予感が現実のものとなった。  近所の人から「お母さん、ご病気?」と聞かれるようになっていた。  その話を両親にするも、どちらも頑として聞き入れてはくれない。  私は限界だった。夫婦喧嘩に巻き込まれて、私まで恥ずかしい目に合わされている。  そこで私は出勤前の父の鞄から、スマホを抜き出して隠すことにした。もう、こんな生活は耐えられなかったからだ。何が何でもこの争いに終止符を打ちたい。  父が家を出る。私は上手くいくことを願いながら、スマホをリビングのテーブルに置くと大学に行くために家を出た。  上の空で講義を受け、急いで家に帰る。バクバクとうるさい心臓を持て余しながら、玄関のドアを開けて、急いで靴を脱ぐ。  リビングに入ると、キッチンに立つ母の後ろ姿があった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!