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何その顔。
あまりの衝撃に私は唖然とした。
何しろ母が、目と鼻と口の部分が切り抜かれただけの白いフェイスマスクをしていたからだ。化粧水がたっぷりついたやつならまだしも、昔テレビで見たある一族の物語に出てきた白マスク男みたいな本格的なもの。どう考えても異様な状況に、私の頭は混乱していた。
「これならずっと、変わらないままでしょ」
表情一つ分からないまま、くぐもった声で母が言う。それから、何事もなかったかのように洗い物を再開した。
「意味がわかんない。なんなのそれ」
どう考えても普通じゃない母の様子に、私は詰め寄る。
「あの人が言ったのよ。お前は老けたって。他の人はずっと変わらないのになってね」
あの人というのは父のことで、確かに父はデリカシーに欠ける面がある。何度となく私と母から冷ややかな目で見られたことか。
だけどそれはいつもの事であって、私は半ば諦めていた。母もそうだとばかり思っていただけあって、まさかの行動に私は母の堪忍袋の緒がとうとう切れたのだと知った。
「ちょっと、買い物に行ってくるから」
母はそう言って、水道の蛇口を止めた。
「まさか、このまま行くつもり?」
私は信じられない気持ちで母に問う。だけど母は何も答えない。エプロンを外すと、財布とエコバックを持つ。
「いい。私が行ってくるから」
私は母の手からエコバックを奪い取る。母から何を買ってくれば良いか聞くと、早々に玄関へと向かった。
顔が分からないとはいえ、今の時代、そんな奇特な人間が現れたらすぐにネットに晒されてしまう。
近所の人に知られたりでもしたら、居たたまれなくなるのは必至だ。
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