鏡の向こうのさくらんぼみたいな青年

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私は、もうすぐ大人になる。 茹でてペラリと皮が剥けるトマトのように、十五歳の子供が儀式によって一皮剥けるというのは、この故郷の村では当たり前のことだった。 清々しい春の森の入り口にて。 白い着物を着た大人たちが、口々に私を囲んで言葉を発した。 彼らの顔はわからない。白い仮面を被っているから。 「これからあなたが入るのは『鏡の森』です。」 「そこで、あなたを恋してくれる人を探すのです。」 「五年後に、二人連れ立ってここへ戻ってくること。」 「いいですね。鈴鹿ちゃん。」 ———はい、と。 私は静かに答えた。 ……五年後なんて、おかしい。私より先に儀式を終えたお姉さんお兄さんたちは、一晩で帰ってきていたように思うけれど。 などと思ったけれど、口には出さない。 儀式とは、そういうものだ。 ゴクリ、と唾を飲む。 普段は一歩たりとも足を踏み入れることを禁じられた『鏡の森』へ入ることを命令されたのだ。図太いと言われる私だけれど、こんな状況では緊張もする。 白い着物の大人の一人が、身を屈めて私に穏やかに声をかけた。……きっと、隣の家のおばさんだろう。心配してくれる心遣いの感じられる、優しい声だった。 「帰り道の心配はいりません。その時になれば、わかりますから。」 「了解です。」 小さく頷く。 そして、儀式の始まりはそれで終わりだった。 私は、いつも霧がかって銀色のもやに包まれたような森の中へ、白いワンピースのみの簡素な格好で踏みいった。
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