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「司、この後の予定は?」
「別にないよ、帰るだけ」
「じゃあ映画でも観に行かない?」
「いいね、観たいのある?」
良かった、菫はいつも通りだ。
「これっていうのはないのよね。ついてから決めましょ」
「うん」
近くのパーキングまで歩いて菫のピンクのベンツの助手席に乗り込む。
「……菫、この件であんまり無理しないでね。別に命を狙われてる訳でもないしさ」
今度はホストクラブの会長に会うかもしれないなんて、どんどん事が大きくなってる。
「してないわよ?むしろちょっとした非日常を楽しんでる」
「そう、なの?」
「ええ。事実は小説より奇なりってね。私は結末が気になるのよ」
「面白くない結末でも?」
「映画でも小説でも結末がイマイチなものは沢山あるわ。だから過程を楽しむのが大事なの」
「そういうもの?」
「そういうものよ」
まあ、これが新作のネタにでもなってくれれば私は良いけれど。
二十分程車を走らせると映画館に着いた。
選んだ映画は貧乏な主人公が成り上がっていくサクセスストーリーだ。
私達は昔から映画鑑賞の時に、飲み物も飲まないしポップコーンも食べない。静かに隣り合う席に座る。平日だからか、あまり人気がない映画なのかお客さんも全然いない。
「司」
「どうしたの?」
「手、繋いでも良い?」
「うん」
菫の手に自分の手を重ねる。
「司」
「うん?」
「私ね、今回帰国したのは自分の気持ちに決着をつける為なの」
「……え」
菫はじっとスクリーンを見ている。
ああ、今日も綺麗な横顔だな、とか。どうでも良い感想が頭をよぎる。
劇場は真っ暗になり、映画が始まった。
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