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「あれだけ……っ、あれだけ学年主任の佐竹に楓と同じにクラスにしてもらえるよう懇願したのにっ!!」
「そんな事するから同じクラスにならないんだよ。自業自得。ほら、HR始まるから俺達はもう行く」
南条君は分かりやすく遠野君に好意を持っていて、それを一切隠そうとしない。
そしてフラフラとした足取りで教室内に入って来た。ガタン!という大きな音を立てて私の隣の席に座る。
まさかの、隣の席。
ちょっと、いや、かなり嫌かもしれない。こういう目立つ人とは関わりたくない。心臓が変にドキドキしている。
「ねぇ、あんた名前何て言うの」
「え、私?」
「……」
その瞬間、南条君の肩がビクっと少し跳ねて私の事をじっと見る。
「?」
何だろう、髪にゴミでもついてる?
「あの、」
「だから、名前。名前聞いてるの。私は南条菫」
「知ってる」
思った以上に態度が大きい。
「ふん。私だって本当は知ってるわよ。寺本司でしょ」
「!ど、どうして、私の名前を知ってるの?」
「二年もこの学校に通ってれば自然と同じ学年の生徒の顔と名前くらい覚えるでしょ」
「いや、覚えないけど」
去年同じクラスだった奴の名前だって怪しいくらいだ。
「あっそ。司って良い名前ね」
「……」
私の名前を知ってる同級生なんて、きっと全然いない。私はいてもいなくても何も変わらない人間だ。
「……あと、声が良いわ」
ほんの少し気恥ずかしげに言う、その姿はいつも遠目でしか見た事のない生徒会長としての南条菫とは違って見えた。
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