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二時間後。
私は鏡の中に映る自分を凝視していた。
「こ、れが私……?」
「そう!ちゃんと可愛いでしょ?」
「可愛い、かもしれない」
今まで、ショートカットにした事はなかったけど思ってた以上に良い。軽くメイクもしてもらって別人みたいだ。
「かもじゃなくて、間違いなく可愛いわよ」
「あの……今日初めて喋った私にどうしてこんな事してくれるの?」
ずっと理由を考えていたけど、全然分からない。南条君はスッと私の手を取った。
「一目惚れ」
「!」
「ていうのは嘘」
「……ちょっと」
うっかりドキッとしたじゃないか。
「でもない」
「いや、どっち?」
「ふふ。ちゃんと答えて欲しいなら菫って呼びなさいよね」
「……」
私は南条君の手を握り返して、ほんの少しこちらに引き寄せる。
「?」
「菫」
「な、何よ」
「ありがとう。今日は高校生活で一番楽しい日だよ」
友達と寄り道なんて中学生以来だ。
「私といたら、今日の楽しいなんて明日すぐ更新されるわ」
「あはは、すごい自信」
今後の人生でもそんなセリフ言う事ないだろうな。
「あと、理由は?菫って名前で呼んだよ」
「もう一回呼んで」
「菫」
「もう一回」
「菫……って。何回呼ばせるの?」
「仕方ないじゃない。声が好きなんだもの」
「ああ、さっきも良い声って褒めてくれたよね」
自分では特徴のない、女子にしては少し低めの声かなって思うくらい。
「ええ。一耳惚れってやつ」
「それだけでここまでする?」
「するわよ?ちょっと世界が明るくなったもの」
「……」
キラキラ、キラキラ。
菫の瞳の中に映る私も明るく見える。
ドキ、と心臓が高鳴った。
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