おしぼりをどうぞ

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手を伸ばせばすぐ触れられる距離にいるのに、それは絶対叶わない。こんな人に恋をしてしまったら毎日楽しくて辛いんだろうな。 「?」 私の視線に気付いたのか菫と目が合う。 「なに?見惚れてたの?」 「うん。綺麗だなって。見た目だけじゃなくて、心も綺麗だと思う」 「……は」 菫は固まって持っていたシャーペンを落とす。 「落ちたよ」 そしてガタン!と大きな音を立てて立ち上がった。 「トイレ!!」 「え?」 「トイレに、行って来るから!!」 「了解」 急な腹痛にでも見舞われたのだろうか。 その五分後、戻って来たのは菫ではなかった。 サラサラでロングの綺麗な黒髪をなびかせて、その子は先程まで菫が座っていた私の目の前の席に座る。 宮野沙織(みやのさおり)ちゃんだ。菫の、幼なじみの。 お人形さんのように大きな目に白い肌、スラッとしたスタイル。誰が見ても可愛いと思う。 「最近、菫とよく一緒にいるよね。今日もここで勉強してたの?」 「うん」 可愛いけど、気の強さが表情に出てる。 「菫と付き合ってるの?」 「付き合ってないよ」 今まで私の事なんて認識すらしてなかったと思うものの、言葉の節々にピリついた物を感じる。 「菫って誰にでも分け隔てないから勘違いしない方が良いよ」 「してないよ。菫の一番は遠野君だし」 「……そう」 「え?」 「そうなんだよねぇ。ほんと昔から遠野しか見てなくてムカつく」 「……」 何だか少しイメージと違うかも。 「だけど私、女の子には負けるつもりないから」 「!」 沙織ちゃんはそれだけ言うとすぐに立ち去ってしまった。
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