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「屋上、立入禁止じゃないの?」
文化祭の期間中は誰も入れない事になっている。
「生徒会権限」
菫はポケットに入れていた鍵を見せてくれた。
「で。何かあった?大丈夫?」
「司、小林と付き合う事にしたの?」
私の質問は聞いてないのか、答える気がないのか。
「いや、分かんない」
「分かんないって、好きか嫌いかだけでしょ」
「人の気持ちってそれだけじゃないと思うよ」
「!」
「物事ハッキリさせるのは菫の良い所だけどね」
「……そうね」
「私達の関係もハッキリさせよっか」
改めて顔を見たら、自分の気持ちが余計分からなくなった。このまま友達でいたい気持ちと……もう一歩だけ踏み込みたい気持ち。どちらもハッキリしない私の本心だ。
「菫は、私の事どう思ってるの」
「どうって、」
「ふざけるのは一切ナシ。私は大事な人だと思ってる。でも正直それが友達としてなのか恋愛感情なのかはよく分からない」
二年間、人間関係なんてロクに構築してこなかったツケかな。こんな曖昧な答えしか出せないや。
「だけど、南条菫に出会ってから私の人生は変わったよ。人と関わるのも悪くないって思えた」
菫には憧れとか、尊敬とか。色んな感情が混ざってるんだ。
「……司」
「うん」
菫はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あんたの事は……親友だと思ってる」
「うん」
「付き合えるか、付き合えないかで言ったら付き合えるし、きっと楽しいと思うの」
「そうだね」
「でも、私にとって司は大事な子だから手は出さない。ずっと親友でいて欲しい」
その答えはスッと心の中に入ってきた。
「……分かった、ありがとう」
入ってきたのに、何でだろう。ズキズキと胸が痛む。でも菫を困らせたくない。私は笑って顔を上げた。
「一つだけ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「私、初めてのキスは菫が良い」
今後、誰かと恋愛する事になってもこれだけは菫が良い。
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