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急いで舞台袖に向かうと昨日のキラキラフリフリしたドレス姿ではない、王子の衣装を纏った菫が立っていた。
「あら、素敵ね」
「言いたい事があり過ぎて何を言ったら良いのか分かんない」
菫は笑って、手に持っていたティアラケースを開ける。
「?これは」
中には小ぶりだけど、キラキラ輝く素敵なティアラが入っていた。
「うちの母のなんだけど借りて来ちゃった。司に似合うと思って」
「似合うかな」
「もちろん」
昨日、あんな事があったのに菫はいつもと変わらない。そしてゆっくりと私の頭の上にティアラを乗せた。
「うん。やっぱり素敵ね」
「ありがとう、菫もカッコイイよ。本物の王子様みたい」
菫は少しだけかがみ、耳元で囁いた。
「なら、今日だけは司の王子でいさせて」
「え」
「さ、行くわよ!絶対一番になるんだから!」
「……菫」
「?」
「菫はこれからも私の王子で姫だよ」
キラキラ、キラキラ。
手の届かない、綺麗な人。菫は何も言わずに微笑んだ。そして顔を上げてステージへと向かう。
この年の文化祭はミスもミスターもまさかの菫が選ばれて大いに盛り上がった。こんな事を言うと怒られるけど私も引き立て役位にはなれたかな、と思う。
あと、小林君とは結局付き合う事はなかった。
気持ちは嬉しかったけど、残り少ない高校生活は菫の傍にいたいと思ったから。
もちろん、親友として。
これが私と菫の忘れられない少しだけ苦い思い出だ。
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