お煙草はお吸いになられますか?

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痛みも大分引いてきて、腕をゆっくりと動かす。もう大丈夫そうかな。 「神楽はさ、いつまでホストやるの?」 何となく、気になったから聞いてみた。長くやる人もいるけれどずっと続けられる職業ではないイメージだ。 「年内でプレイヤーは上がるつもりです」 「そうなの?」 「はい。お金は十分稼げたので」 「上がったあとの予定は?」 「半年くらいは海外に行って、色んな場所を見てみようかと。その後は通信制の大学に入学して母の実家の農業を継ぐ予定です」 「……」 すごく、現実的な回答をされて正直驚いた。 これも勝手なイメージだけどきらびやかな世界とは真逆な事をやろうとしている。良い意味で海陽町に染められなかったのかな。 「未練は?まだまだ若いしプレイヤーとしても成功してるよね?」 悠成と一緒に新しいお店を出店するとも言ってたし。 「悠成さんがいたら、ずっとついていくつもりだったんですけど……いい加減自分の人生ちゃんと考えないとって思ったんです。俺は悠成さんに頼るばかりで何もなかったんだなって。いなくなって初めて気付きました」 「……絶対そんな事ない」 「え」 「何もない人はホストとして成功は出来ないと思う。高校卒業してからその若さで店の看板ホストにまでなってるのは神楽が努力した結果だよ」 「司さん、」 「行動力もやる気もあるし、今日の為に会長に土下座までしたんでしょ?神楽は頑張ってる」 私だったら、こんなに頑張れないと思う。 「へへ。そんなに褒めてもらえるの久々で嬉しいです。南条さんやめて俺にしておきません?」 「だから菫とは何もないって」 「でもファーストキスの相手じゃないですか」 「それは、そうだけど」 お互いなかった事になってるというか、触れにくいというか。 「?」 神楽は私の頬に触れてじっと瞳を見る。それはすごく綺麗で吸い込まれそうだ。でも雰囲気に流される年齢ではないし神楽はホスト。これも営業かもしれない。 「腕はもう大丈夫だから、早くこの部屋探すの終わらせよう」 「そうですね、でも無理はしないで下さい」 「うん」 神楽は私からパッと離れてクローゼットを調べ始める。 「……」 平気なフリを装ったけど、正直男慣れなんてしていないから心臓がバクバクしている。 距離も近いし良い匂いはするし、肌は綺麗だし、緊張した……。
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