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菫のデビュー作、【夜の隙間から】は親友を殺した冤罪で追われる事になった主人公の浅見が色んな人の助けを借りて事件の真相に迫るストーリーだ。
賛否両論ある結末で犯人は浅見の恋人。
事件は解決するものの、恋人は自死を選び親友と恋人どちらも失った浅見が失意にくれる何とも後味の悪いエンドだ。
そして最新作の【朝、眠りにつく時】は【夜の隙間から】の浅見の担当弁護士、桐野が主人公になっている。作中に前作から数年後の浅見が少しだけ出てくるのだけど……彼は自分をずっと支えてくれた幼なじみの女性と結婚していた。
『私ね、今回帰国したのは自分の気持ちに決着をつける為なの』
とうとう、沙織ちゃんと結婚するのかな。
あー、なんか。なんだろ。
全然映画の内容が頭に入ってこない。
いつの間にかエンドロールが流れて、一人また一人と立ち上がり劇場を後にする。残されたのは私と菫だけになった。
「菫」
「何よ」
「映画の前に、変な事言うのやめてよ。集中出来ない」
「変な事って?」
「気持ちに決着云々」
「ああ、ごめんなさい。急に伝えたくなって」
「……」
謝られたものの、悪びれた様子は全くない。
繋がれた手もそのままだ。
「結婚式には呼んでよね。友人代表スピーチならやるよ」
目立つ事は好きじゃないけど菫の晴れ舞台なら別だ。
「結婚式って誰のよ」
「菫と沙織ちゃん」
「だと思った」
否定も肯定もせず菫は私の手を引いて立ち上がる。
「行くわよ」
「行かない。手を離して」
「嫌」
「じゃあ、気持ちの決着ってなに?誰に対しての?」
分かりきった問いをするのは本当に馬鹿らしい。私達は高校を卒業してからずっと友達だった……友達でしかなかった。
「そんなの」
「?」
「そんなの、司に対してに決まってる」
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