66人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ
「……」
一瞬、菫が何を言っているのか理解出来なかった。頭が真っ白になって現実じゃないみたい。
私はそっと菫の肩を押す。
「……好きって、私の事が?」
「そうよ」
「いや、いつから?いや、沙織ちゃんは?遠野は?」
「多分、高1の屋上での出来事から。沙織の事は大丈夫。楓には二十年前に振られてる」
はい?今まで何回もくっついたり離れたりしてたんじゃないの?
「私達、友達だよね」
「ええ」
「友達でいる事を選んだのは菫でしょ?」
「高校生の時は、友達以上の関係になる勇気が出なかった」
「は、あ?」
私があの時、どんな気持ちで……どんな思いでいたか分かってるのか。ただ、胸が苦しくて苦しくて。それでも親友だと言われたから傍にいたのに。
「お断りです」
「!」
「恋愛ってタイミングだよ。私達はそれをもう逃してると思う」
「そんな事ない」
「もう女友達としてしか見てない」
「これから、その、男として見てよ」
「乙女じゃないの?」
「そうだけど」
「とりあえず、お断りだから」
やってられない。帰ろう。
「自分でも、勝手な事してるって分かってる」
「本当に自己中過ぎる。やってる事はクズだからな。私の事はキープか何かだと?」
「……何を言われてもその通りだから否定はしない」
「しないじゃなくて、出来ないでしょ。今日はもう電車で帰る」
「ダメ、送る」
「いいって。一人になりたい」
感情がぐわんぐわんして自分が今何を言ってるのかさえよく分かってない。
「……司」
「でも、一言だけ言わせて」
「何よ」
「菫はこの先きっと良い恋愛なんて出来ない」
「!」
これを言うのは、二度目だ。バン!と車を下りて歩き出す。ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな。
「っ、」
なんで今さらそんな事言うの。
それは高校生のあの時、聞きたかった言葉だ。
最初のコメントを投稿しよう!