83人が本棚に入れています
本棚に追加
「司!」
追いかけてくる菫の声は無視。だって顔なんて見れない。でも二十九歳の私は十七歳の私と違って泣いたりしない。
「待って、ねぇ!」
私はピタリと立ち止まった。そしてゆっくりと振り返る。
「南条菫は私にとって、ずっと高嶺の花だった」
「!」
こんな状況なのにやっぱり菫の事を綺麗だと思う私の脳味噌は大分バグッてるのだろう。
「手に入らないからこそ、綺麗に見える世界もあるんだろうね」
「……ごめんなさい」
「いつもみたいに余裕綽々で笑ってよ」
「言い訳にしかならないけど沙織とは、」
「聞きたくない。お願いだからもう一人にさせて」
「本当に、本当にごめんなさい」
「……」
ああ、そんな顔が見たいわけじゃないのに。
「もう、遅過ぎるんだよ」
「それでも、諦めたくない」
「これ以上私を振り回さないで」
今度こそ、歩き出す。菫は追いかけてこない。
私はどこに向かって歩いているんだろう。
分からない。何も、分からない。
菫の心も……自分の心もぐちゃぐちゃだ。
「はあ」
立ち止まって、空を見上げる。
ここまま友達でもいられなくなってしまうのだろうか。大分、キツイ事を言った気がする。
……とりあえず、飲むか。
家に帰っても悶々とするだけだ。飲もう。
最初のコメントを投稿しよう!