Darling

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 ジャズ調のジングルベルを、トランペットの音が心地よく奏でる。  そんなBGMを流しながら、テーブルにはチキン、ミネストローネ、色とりどりのサラダにペスカトーレ。中央にはカットしたシュトーレンを置いて、シャンパングラスを四つ並べたら、うん。我が家にしては立派なクリスマスホームパーティだ。 「さて、じゃぁ、いただこうか」  向かいに座る夫の正人が、グラスを小さく掲げたのを合図に、「乾杯」と四人で微笑み合った。 「――あの時の凛子のことは忘れられないな。2リットルのペットボトルを二本、どんと置いただけで顔を真っ赤にして帰っちゃって」 「だって、いざ目の前であなたと野球部の皆さんに注目されたら、途端に恥ずかしくなっちゃって、気の利いた会話なんか出来なかったのよ」  私が夫に憧れ、野球部のいる球場へ追っかけのように唐突に押し掛けた時のことを、夫は未だにからかってくる。  「あはは、可愛らしいじゃないですか」と、私の隣に座る久永君が笑って、爽やかな白い歯を見せた。笑い終わると、「うんま!」と、かぶりついたチキンに目を輝かせながら、頬いっぱいにもぐもぐした。 「シャンパン苦手だったら、ビールとか、ジュースもあるよ?」  私が久永君の好みを気遣うと、久永君は、「ううん、クリスマスパーティだもん、シャンパンがいいです」と口元に食べこぼしをくっつけながらにっこりと微笑みを返した。「あなたは?」という視線を、夫の隣に座る青年に送ると、にっこりとシャンパングラスを傾けた。  美味しい料理を囲んで和やかに談笑していると、時間が経つのも早かった。 「……じゃぁそろそろ、僕たち夫婦の、ここ数年恒例のクリスマス儀式をしようか」  正人が時計に目をやりながら言った。 「そうね」  私も頷く。  何が始まるのかわかっていない久永君と、夫の隣に座る青年は、私たち夫婦に視線を向けた。 「僕たちはね、結婚して十九年。娘のサンタになるのも、お互いにプレゼントを贈り合うなんてのも、とうに卒業している。その代わりクリスマスイブの夜は、感謝でも不満でも秘密でも何でもいい、『今までなかなか言えなかったこと』を言い合うことにしてるんだ」  久永君と青年は、納得したように相槌を打った。 「いつもは凛子から話してもらうんだけど、今年は僕からでいいかな」  正人は居住まいを正し、隣に座る青年を見た。  事前に、「会わせたい人を呼んである」と正人からは聞いている。ついにこの時がと、私はぐっと拳を固く握り、その拳とは裏腹に、「ええ、もちろん」と柔らかく微笑んでみせた。
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