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「これをいいお葬式って言うんでしょうね」
「あ、そう」
僕が葬儀の報告をすると社長は気のない返事をした。
「不謹慎なのは承知です。できれば葬儀なんてない方がいいに決まってる。でも誰にでも必ず死ぬ時はくる。その時どう送ってもらえるかが自分の人生の集大成といえるんじゃないですかね」
「人間死んだら終わりだ。いくら豪華な葬式でも自分は出席できないんだからな。ガハハハハ」
葬儀は故人のためではなく、遺された者のためだと言う人がいる。確かに社長の言うとおり自分は参列できない。
故人のためにというより、親族友人と悲しみを分かち合うために葬儀は行われるのかもしれない。でも自分がいなくなった事をみんなが悲しんでくれている、たくさんの人が送ってくれている。きっと故人は空の上から見て嬉し涙を流している事だろう。
でも、葬儀の時はたくさんの人に囲まれて慰めてもらうが、葬儀が終わりひとりぼっちになった時、遺族はその孤独とどう向き合うのだろうか。
若き未亡人は今頃悲しみに耐えて孤独に泣いているのかもしれない。それを思うと胸が押し潰されそうだった。側についていてあげたい。慰めてあげたい。いや、それこそ不謹慎だな。
「おい! 振り込まれてないぞ!」
社長が僕を呼び付け大声をあげた。
「は? 何の事ですか?」
「あの”松”だ! 祭壇も花も引き出物も”松”の葬儀費用だ。今日が振り込み期限なんだ。お前行ってこい!」
慌てて会社を飛び出し未亡人宅へ向かった。しかしいくらチャイムを鳴らしても応答はない。電話も繋がらない。呆然として会社に帰ると社長はテレビに釘付けになっていた。
『保険金殺人か!? 若き未亡人、愛人と海外へ逃亡!』
あの未亡人の写真がテレビ画面に大きく映されていた。
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