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 老人は棺と一緒に霊柩車に乗った。僕は息子さんと一緒の車で火葬場へ向かった。 「母さんは知ってましたよ、ずっと前から」 「そうなんですか?」  息子さんは面白そうに話してくれた。 「母さんだけじゃなくて、周りのみんなが知ってました。でも本人はバレてないと思い込んでいたので、知らないふりをしていました」 「じゃあ騙されてたのはお母さんじゃなくてお父さんの方だったんですね」 「そうなんですよ」  息子さんはやっと笑えると思ったのか、破顔した。 「仲が良かったんですね」  僕の言葉に息子さんは大きく頷いた。 「子どもからみても恥ずかしいほどでした。まるで保育園児がままごとをしているような、子犬がじゃれ合っているような、そんな夫婦でした」 「そうでしたか」 「だから僕もそんな夫婦になりたいと思いました」  騙し合いはしていたが、それはお互いを愛していたからこその微笑ましい嘘だった。そんな両親を見て育った子どもたちがまた、仲の良い家庭を作る。  親は子どものお手本だ。良いお手本からは良い作品が生まれる。子どもが良い家庭を築けたら、その子育ては正解だったと言えるのではないだろうか。    僕もそんな良いお手本になれるように頑張ろう。
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