エンバーミング

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エンバーミング

「今から来い」  夜中に呼び出される事は葬儀屋では日常茶飯事だ。なのでコール3回で覚醒できるようになった。  すぐに支度をして会社へ向かった。到着すると社長はすぐに車を出した。 「どこへ行くんですか?」 「警察だ」  背筋に冷たいものが走った。  事故などで手当ての必要な方は病院へ運ばれる。例え意識不明でも一縷の望みがあれば救急車で搬送だ。しかし誰がどう見ても確実に亡くなっている場合は警察に運ばれる。  警察署に着くと当直の警察官が遺体安置室へ案内してくれた。 「マグロなんです」  それを聞いて僕は意識が遠のいた。壁に寄りかかり何とか倒れずに済んだ。  マグロとは、電車での人身事故の事だ。損傷が激しく、鉄道関係者は「マグロ」と呼んでいるそうだ。  遺体安置室の扉を開けると、中に白衣の女性がいた。 「できる限りの事はしておいたから、あとはよろしく。あ、首と足は特に気をつけてね」 「おう」  それだけ社長と言葉を交わすと女医さんは出て行った。 「今の方は?」 「市民病院の救命救急の医者だ」 「さすが社長。お医者さんとも顔見知りなんですね」 「女房だ」 「は?」  救命救急の医師と葬儀屋が夫婦? 不思議な取り合わせだ。
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