エンバーミング

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 社長はご遺体が安置されているベットに近寄ると目を閉じ合掌した。僕も恐る恐る近づいた。 「あ……綺麗なお顔ですね」  思っていたよりも顔は綺麗で、かすり傷と打撲程度の傷だった。 「アイツが言った事覚えてるか?」 「首と足は気をつけろって……」 「取れてたんだろう。だから頭部は損傷を免れて綺麗なんだ」 「ヒーー……」  僕は社長と2人で壊れ物を扱うように着物を着せた。体中これでもかと包帯が巻かれていた。 「さて仕上げだ。お前に任せる」 「はい」  僕は化粧水を含ませた布で顔全体を拭いた。その後コンシーラーで傷跡を隠し全体にファンデーションを塗った。頬と瞼と顎に少し頬紅をさした。血の気の失くなった唇には薄ピンク色の口紅を塗った。男性なので自然に近い色にした。 「綺麗になりましたね。これならご家族を呼んでも良さそうだ」  部屋の隅で見ていた警察官がそう言うと部屋を出て行った。 「じゃあ俺たちも外に出よう」  僕たちは荷物をまとめ部屋から出た。すると廊下の向こうから警察官に連れられて女性がやってきた。きっと奥さんだろう。  奥さんはバックをきつく抱きしめ、緊張した顔をしていた。遺体安置室の前にくると立ち止まり、動こうとしなかった。 「どうぞ」  警察官が促しても体が固まってしまったのか、能面のような顔でしばらく立ち尽くしていた。しかし急に回れ右をして帰ろうとした。 「とても綺麗な顔をしてますよ」  社長が横から声をかけると奥さんは社長を睨んだ。 「嘘! そんなわけない。ううん、他人よ! うちの人がこんな所にいるわけない!」 「確かめるだけでもしてあげてください。待ってますよ」  社長の言葉に奥さんは覚悟を決めたのか、歩き出し部屋に入った。 「嘘ー! 嘘でしょ。眠ってるだけよね? 起きて、起きてよぉーー」  奥さんの慟哭は胸に突き刺さった。朝普通に家を出ていった夫がこんな姿になってしまうなんて。辛い、信じられない。そんな言葉じゃとても表現しきれないだろう。どんな慰めの言葉も役には立たない。
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