小学生、そして出会い。

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「やっぱり、やらなくちゃダメですか?」 と、言う彼女に、もちろん教師は促した。 「あのさ、笑わないでよね。あ。いいや、もう笑っちゃって!」 そうして黒板へと向かった彼女の後姿をみて......教室がざわついた。 彼女の後ろ髪の横のほうが盛大に跳ね上がって寝グセがついていたから。 そうか、彼女はそれを見られるのが嫌だったのね。 それこそ早く名前を書くのを終わらせたいのか?彼女は、ものすごい スピードでチョークを走らせた。 そこには......。 『夏野那由他』と、書かれていた。 「はーい、寝グセは忘れてください!自己紹介します。 こっちだけおぼえてください!」 真正面を向いた彼女へと、生徒全員が笑った。 「『なつの』が名字で『なゆた』が名前です。 『なゆた』のほう、わかる人いますか?」 「数の大きさ」 いつもなら積極的には声を出さない私は、反射的に即答してしまった。 「すごーい!そこのクリっとした、おでこちゃん!なんでわかったの?」 クリッ......なんて言われて、また笑い声が響いた。 私は長い髪をゴムでキッチリまとめて、おでこを見せて、メガネだけど そんな言われ方は初めてだった。 「え、いや、あの、私の名前が『円 (まどか)』で。 あ、お金を数える円と書いて『まどか』で。 それで、数字についても知ったんです。 確か那由多は、兆よりずっとずっと上ですよね?」 教師以外では私しか知らなかったらしく、教室内が『おぉーっ』 という声でどよめいた。 「そっかあ、すごい!奇遇だね!いろいろと」 「は?」 いろいろと?なにが? 那由他は教師に席に着くよう言われ、後ろの席の女子の隣に座った。 「うわあっ!髪の毛、綺麗だね。あたしなんてこんなゴワゴワだよ? うらやましいなあ」 急に気さくに話しかけられ、しかも褒められて、隣の席の女子は 戸惑いつつ笑顔だった。 なんだかコミュニケーションの達人って感じの子だなあ。 もちろん夏野那由他は数日でクラスに馴染んでしまった。
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