小学生、そして出会い。

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「霊感体質にはね、いろんな力の違いがあるんだよ。 円ちゃんはパワー系だね。霊に触れるし、投げれるんだから」 那由多の父親から、また新しい情報が入ってきた。 「あ、そういえば......。横断歩道で、おばあちゃんの荷物を 持ってあげたことがあります。 そしたら信号を渡りきったら消えちゃって。 そのときも、物が持てたことに驚きました」 「へぇ、ちょっと見てみようかな」 そう言うと那由多の父親は、右手の人差し指を額に当てて目を閉じた。 「なるほど。君は良い子なんだね、 重そうだからって荷物を持ってあげるなんて。 それって、紫色の風呂敷包みじゃなかった?」 「そ、そうです!派手な色だったからおぼえてます!」 私が言ってないことを言い当てた! 那由多の父親は、同じポーズで目を閉じたままだ。 「その人ね、荷物が重くて横断歩道を渡り切れなくて、 車に轢かれて亡くなってしまったんだよ。 もう20年以上は前の出来事だ。 でも君が風呂敷包みを持ってくれたおかげで、渡り切ることができた。 だから成仏できたんだよ」 「すすす、すごい!!」 「うん、円ちゃん、すごい!優しいね。 ねえ、お父さん、あたしのときもね、 女の子を泣かせるなって叫んで助けてくれたのよ!」 いえ、私が『すごい』って言ったのは、那由多の父親の霊視とかいう 能力のほうだったんですけど。 「あ、優しいっていうか、私の両親から学んだことっていうか。 いつも言ってきたんです。人と人とで助け合えることが大事だって」 「そうなんだ、良い家族だね」 「うん......だから、私に霊感があることは、ずっと黙ってて」 「そうして殻に閉じこもってしまったんだね?」 那由多の父親が目を開けた。 「ごめん、君のことも霊視してしまったよ。 家族で平和にやっていけるように、君は黙ってた。 家でも学校でも、誰にも心を開かずに、波風を立てないように 過ごしてきた」 「は、はい」 ホットココアを持つ私の両手が震えて揺れた。 「それから、私は......幽霊だけでなく、なんでも相手の言う通りにして 反論しないクセがついて。 だから、お母さんの作る料理は好きだけど、辛いカレーだけは苦手で、 でも、言えなくて......」 那由多の父親が寂しげな顔で、それでも微笑んでくれた。 「まだ小さい頃から、いまだって小学6年生なんて子供なのに......。 独りで大変だったね。よく頑張ったね」 私は泣いた。 その気まずさを区切るかのように、那由多の母親が帰ってきた。
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