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祥太朗さんというひと
ーーーー帰宅してから着替えもせずアパートの部屋の真ん中で座り込んでいた。
と言うのもいちご園から真っ直ぐアパートに送ってくれたイチくんが車から降りた私に爆弾発言をしてくれたのだ。
『伊都ちゃん、俺と一緒に海外に行く?ちょっと考えてみて』
は?
何を言われたのか理解できなくて聞き返そうとしたのにイチくんはすぐに車をスタートさせて走り去ってしまった。
俺と一緒に海外に行くって・・・。
それどういうこと?
旅行??
まさか色恋絡みで俺について来いって事なのか、通訳兼生活のサポート係としてついてきて欲しいのか。
いったい何なの???
頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
何度二人で会っても私とイチくんの間にはそういう空気が流れたことはないと断言できる。
なんと言っても私を見るイチくんの目に熱がないのだ。
いくら恋愛を放棄していた身でもそれくらいはわかる。
それは間違いないんだけど、じゃあいきなりどうしてイチくんが私を海外に誘ったのかってことなんだよね。
イチくんには私がビジネスで英会話を使ってるって話もしたことはないし、そもそもイチくんがどこの国に行こうとしているのかも聞いてない。
それはたぶん私の英語力を必要としているわけじゃないって事のような気もする。
ホントにこれってどういう意味なのっ。
”ちゃんとした説明を求める!”とメールを送ろうとして指が止まった。
私はイチくんがそう言いだした理由を知りたいのか。知ってどうするのか。
もしも、もしも、
イチくんが私に恋愛感情があって一緒に海外に行って欲しいって言ったのだったらーーー
いやいや、待って。そんなはずないし。
じゃあやっぱりビジネス?
ううん、ビジネスならきちんと私の経歴とか理解していないとオファー出さないよね。
だったら家政婦的な生活サポートか。
うん、これが一番近いのかも。
でもそんなことイチくんが私に頼むんだろうか。
偽幼馴染みのわたしに。
「だからほんと、なんなのよー」
テーブルに突っ伏してひとり言には大きすぎる声を出した途端スマホが鳴り出し、驚いて飛び上がった。
電話の相手は姉だろう。
用件は大体わかっている。
今日姉一家は祥太朗さんを自宅に招いていたはずだからその報告に違いない。
「もしもーし」
『・・・・・・』
「お姉ちゃん、なあに、どうしたの」
『・・・伊都、俺だ』
電話の向こうから聞こえてきたのは姉の声ではなく低音の祥太朗さんの声だった。
胸がドキンと大きく鳴る。
「ごめんなさい、間違えてしまって。確認しないで電話に出てしまったものだから。・・・それで何かありましたか?」
うっかりミスに飛び上がり、思わず正座してしまった。
今日姉家族と会った場で何かあったんだろうか。
『ああ、いや。結ちゃんには会わせてもらった。少し抱かせてもらったよ。お姉さんのご家族には感謝してる。だからそっちは何も問題なかった』
そっか、よかった。
でもだったらどうしたというのだろう。
『・・・てっきり今日伊都も同席していると思ってたんだが』
ああ、そういうこと。
「私はあの家の同居家族じゃないのよ。身内ではあるけど」
『そうだな。同席するか確認しなかった俺が悪いけど、伊都がいないとは思わなかった。・・・・・・伊都、一度ゆっくり話がしたい。今部屋にいるんだろう。下にいるんだけど出られないか』
「え、今ここの下にいるの?まさか・・・」
うちのここの前にいるってこと?
急いで窓に向かいカーテンを開けると、アパートの下に見覚えのある高級車がハザードランプをつけて路駐している。
運転手さんがいる車ではなくあの日祥太朗さんが運転していたSUVだ。
今さら居留守・・・という手は使えそうもない。
換気のため窓を開けていたから風に揺れるカーテンを見て祥太朗さんも私が部屋にいると思ったのだろうし。
「・・・少し待っててもらえますか」
『わかった。いきなり来て悪かった。急がなくていいから』
急がなくてもいいと言われても急がないわけにはいかない。
相手はあの大企業の専務様だ。
さっと自分の格好を見下ろす。
出掛けた服のままで部屋着に着替えてなくてよかった。
鏡を覗き込んで手早くメイクを直すと戸締まりを確認してすぐに部屋を出た。
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