祥太朗さんというひと

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「急にこんなことを言われても困るだろうけど、伊都が稲川選手と一緒に行ってしまうんじゃないかと思ったらいても立ってもいられなくなって。俺も必死なんだって事は理解してくれないか」 理解ーーー 理解なんてできるはずがない。 急に捨てられて苦しんだし忘れようとしていた私の3年間。 こうして話を聞いた今は祥太朗さんも苦しんでいたのはわかったけれど私のあの3年がなかったことになるわけじゃない。 未だに私の心は祥太朗さんのことが気になって仕方がないけれど、だからといって今の祥太朗さんとやり直すなんて気持ちにはとてもじゃないけどなれない。 「・・・・・・再構築もやり直しも考えられないんですけど」 これが私の本音だ。 「それもわかってる。だけど悪あがきをさせてくれ」 「迷惑だと言ったら?」 「それでもあがいてみるさ」 「連絡されても電話は出ないしメッセージの返信もしないかも」 「着信拒否されない限り送るし、俺には強い味方もいるしな」 「味方?まさか」 なにも言わず祥太朗さんの口角がちょっと上がる。 姉夫婦ってことはないだろう。姉たちは別れた当時の私の萎れた様子をよく知っている。・・・・・・って事は昴。 あの子を丸め込んだのか。 母親の出産で不安だったとき側で世話を焼いてもらって昴はずいぶん懐いたみたいだから今日再会してあの子はまたはしゃいだのかもしれない。 「子どもを利用するのはやめて欲しいのだけど」 「悪いけど、こっちも必死なんだよ。・・・ま、それは冗談として、今度昴くんと出掛ける約束をしてるんだ。それはダメだって言わないでくれよ?ご両親の許可は得ているし」 「祥太朗さんが昴と?」 「ああ。鳥羽たちが面白い事業を始めてさ。VRのサッカー体験ができるイベントをするっていうから誘ったんだ。俺がひとりで行くよりサッカーができる昴くんと一緒に行った方が楽しそうだろ」 「そういうことなら・・・・・・」 私を巻き込まないのであれば私が口を出す事はない。そんなイベントなら昴は行きたいだろうと思うし。きっと喜んでいることだろう。 「伊都。なあ、伊都にとって稲川選手ってどういう存在なんだ」 「また話がそこに戻ってくるのね」 思わずため息が出た。 「俺にとっては重要な問題だからね」 祥太朗さんの謎の執着に複雑な気持ちになる。 そんなに私のことを思ってくれているのならなぜあの時連れて行ってくれなかったの、そんな言葉が口から出そうになって唇を噛みしめた。 結局私は彼のことが許せないのだと思う。
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