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それから祥太朗さんが口を開こうとしたとき、スマホがまた鳴り出した。
舌打ちしながらスマホを手に取った祥太朗さんが画面を見て更に厳しい顔つきになる。
大事な取引先か、緊急案件か。
そう思ったのに祥太朗さんは電話に出ようとせず電源も落としてしまう。
「大事な用だったんじゃないの」
「いい。伊都の方が大事だし、今を逃すと今度いつ二人でこんなふうに話ができるかわからないからな」
逃げるだろう?と目で問われて私は苦笑した。
しっかり読まれてる。
それでも彼の仕事に穴が空くようでは困る。しかもその理由が私の存在だなんてあり得ないことだ。
「今日は逃げないから電話には出て。私のせいで誰かが困るって状況の方が嫌だし。ここで待ってるからさっきの電話もかけ直してあげて」
抱えていたバッグも足元に置き、浅く腰掛けていたソファーにも深く座り直し逃げないという姿勢をとって祥太朗さんに薄らと偽りの笑みを向けてやると祥太朗さんは諦めたようにため息をつきながらスマホを手に取った。
「ごめん、すぐに終わらせるから」そう言って私に背を向けリビングから出て行った。
ドアの向こうから祥太朗さんの声が小さく聞こえる。
どこかの部屋に入らずに廊下で話しているらしい。
まさか私が逃げることを警戒して玄関に繋がる廊下にいるわけじゃないよね?
座り心地のいいソファーに思い切りもたれて目を閉じた。
再会してから祥太朗さんがしつこいほど絡んできたのは私とやり直したいからだなんてーーー思ってもみなかった。
自分勝手に別れたことに対しての罪悪感とか、あれから私がどうしていたか気になったとか、そんな感情からの行動だと思っていたけど違ったんだろうか。
それを祥太朗さんへの思いを消しきれない私は正直それを少し嬉しいと思ってしまう。
気持ちを残していたのは私だけじゃなかった。
でも、
だからといってそれを受け入れるかというと、それは全く違う。
違うだろう。どう考えたって。
祥太朗さんのしたことでどれだけ私が傷ついたか。
あれが私のためだなんて言われても納得出来るはずがない。
全てが今さらだって何度も言ってるのにどうして分かってもらえないんだろう。
今さらそんなこと言われてもあの時私たちの道ははっきりと分かれてしまったのだとしか言えない。
”好き”という気持ちが残っていてもだからまた付き合うという気持ちにはどうしてもなれない。
信頼は失われてしまったのだ。
いつまた捨てられるのかなんて不安を抱えて付き合っていくことはできない。そんなの苦しすぎる。
ーーーーさて、どうやってわかってもらおうか。
きちんと終わらせないとと思ってここに残ったけど、これちゃんと決着できるのかな・・・・・・。
一緒にいたころの祥太朗さんは私の希望をできる限り叶えてくれようとしてくれる恋人だったことを思い出す。
だから自分の希望を伝えながら彼のしたいことも聞くようにしていた。
今夜食べたいもの、
観たいテレビ番組、
休日ドライブデートの行き先、
些細なこともなんでも。
そうでなければ、彼は私のことを優先しすぎるところがあったから。
だからこそ別れを切り出されたときはとうとう祥太朗さんは私の相手をするのに疲れたのだなと思った。
そして
再会してからの祥太朗さんはずいぶん強引になったなと思っている。
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