思い出は胸に痛い

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「さあここからは人が増えてくるから手をつなごうか。はぐれたらわたしも昴もママに叱られちゃう」 「わかった」 昴は素直にわたしと手を繋いでくれた。 この辺はまだ子どもで助かる。 今日のわたしたちはサッカー日本代表の試合観戦をするために国立競技場に向かっていた。 私の姉が昴の母親で現在第二子妊娠中。 昴の父親も仕事で不在のため、今日は私が彼の保護者だ。 徐々に歩道に人が多くなり、はぐれたらどうしようと本気で不安になる。 「昴、手を離さないでよ」 「わかってるよ。伊都ちゃんは方向音痴だから迷子にならないように気をつけてあげてってママに言われてるから。ちゃんと連れて行ってあげるから心配しないで」 「・・・・・・よろしくお願いします」 情けないけど、これも現実。 うちのできた甥っ子サマ、頼りにしてます。 自他共に認める方向音痴の私。 以前アーティストのライブで東京ドームにいった時に同伴者と離れてお手洗いに行ったら、ゲートナンバーを忘れてどこの席かわからなくなり戻れなくなったという黒歴史を持っている。 それから席を離れるときは必ずチケットとスマホを持って行くようにしているんだけど。 チケットにゲートナンバーが書かれていてもそこがどこかわからなくなったってこともあって、実はわたしにとってトイレひとつ行くのも大変なことだ。 今日は絶対にトイレの外で昴に待っててもらおうと決めていた。 こんな叔母でごめんよ、昴。 それでも何とか無事に競技場の席につくことができてホッとした。 今日は親善試合といっても海外組もみんな合流していることもあってもちろんチケットはSOLD-OUT。 観客席は最上段の端まで埋まっていたのだから最早奇跡かと思ったくらいだ。 (それもこれも昴と会場スタッフの的確な誘導のおかげなのだが) 子どもらしくそわそわし始めた昴。 「伊都ちゃん、楽しみだね。早く始まらないかな」 幼い頃からサッカーをやっている昴はサッカーが大好きだ。 もしかして叔母をきちんと誘導しないとという使命感で席に着くまで変に緊張させていたかもしれない。 本当にごめんよ、昴。 クリスマスプレゼントは予算増額することにしよう・・・・・・ わくわくしているのは甥っ子だけじゃなくて、実は叔母の私も。 熱狂的サポーターでなくても日本代表戦を聖地・国立競技場で観戦できるなんてなんてラッキーなんだろう。 そうしてスタンドにいる全員がキックオフの笛を待っていた。
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