思い出は胸に痛い

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「さっきのイケメンSNSでもう評判になっちゃってるじゃん。みんなどんだけイケメン好きなの」 帰りの電車でスマホをいじっていた昴が呟いた。 「・・・・・・へぇーそうなんだ」 「表彰式もテレビ中継されてたから注目されちゃったんだね」 「・・・・・・へぇ-」 「伊都ちゃん、なんかテンション低っ。あのイケメンに恨みでもあんの?普段イケメン大好きっていってるくせに」 昴のひと言にドキリとする。 昴がわたしと祥太朗さんの関係を知るはずないし、もちろん姉も知らない。 それにたぶん恨んではいない。 「ないよ、ないない」 慌ててにへっと笑顔をつくったけれど、昴には胡散臭い笑顔としか思われなかったらしい。 「なんか怪しい」 やっぱりわが甥っ子サマには隠せなかった。 「手の届かない知らないイケメンより身近で触れることが出来るうちのイケメンがいい」 とんっと隣に座る昴の身体に自分の肩をぶつけると将来有望なうちのイケメン甥っ子がにへっと笑顔になった。 やっぱりうちの甥っ子カワイイ。 「10年経ったらおれもあんなイケメンになれるかな」 「アレみたいにになるには21年後だけどね」 思わず口から出てしまった言葉に「ええ?!伊都ちゃんやっぱあの人のこと知ってんの」と昴が反応してしまった。 「ううん、知らない。た、たぶんそのくらいかなって思っただけよ」 苦しい言い訳だとは思うけど、まだ小学生の甥っ子に元カレでしたとか言えるはずもないし、知り合いだっていうのも憚られる。 「なんか怪しいな。けど、あんなイケメンで大企業の重役っぽい人と伊都ちゃんが知り合いとも思えないしなあー。うーん、もしかして元カレに似てるとか?いやそんなはずないか。伊都ちゃんが元とは言ってもそんなイケメンの彼氏捕まえられるはずないし。って事は失恋した相手とか憧れてた男にあの人が似てるってこともーーー」 ぶつぶつと言い出した甥っ子に真実を告げなくてすんだけれど、ずいぶんわたしの扱いがひどい。 だからといって、『本当はさっきのイケメンは元彼なんだぞ』とは言えない。 口が裂けても言えない。 「そんなことより、Jリーグのジュニアチームの練習って大変じゃないの?明日もでしょ?」 昴は地元の少年団のサッカーチームにいたのだけれど、スカウトされてJリーグのジュニアチームに加入していた。 「全然。そりゃあ競い合って負けると悔しいし、レギュラー争いも熾烈だけど。練習は楽しいよ。おれの実力じゃあ簡単にJリーガーになれるとは思ってないけどさ、今はやれるだけのことはしたい。頑張ってもサッカー選手がダメだったらすっぱり諦めてキャリア公務員になる」 は?マジか。 Jリーガーかキャリア公務員って。 今時の小4ってこんなことを考えているの? 子どもの夢と言えば「絶対Jリーガーになる!」とか言うんだと思ったけど、まさかのJリーガーかキャリア公務員とか。 どっちも夢なんだろうけど・・・・・・。 あの姉か義兄が現実的なことを息子の耳に吹き込んでいるのか?うーん。 「うん、頑張ってね」 複雑な心境だけど、叔母としてはかわいい甥っ子が後悔することがないようにしてもらうのが一番。 今はサッカーを頑張っているのなら、それを応援するしかない。
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