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俺は突然パーティを首になった、でも再就職先はもう決まっていた
「アンヌ危ない!?」
「ブレイク様!? 大丈夫ですか!!」
俺はもう四十歳になる黒髪に黒い瞳を持つおじさんの冒険者でブレイクという、今日は俺のいる『夜明けの太陽』のパーティーでデビルスネーク退治に来ていた。そうしていたら黒髪に赤い瞳をした神官のアンヌが、デビルスネークのしっぽではじき飛ばされそうになった、だから俺は彼女を庇ってそれで少しだけ背中に傷を負った。俺は助けたアンヌに大丈夫だと言い笑ってみせて、そしてデビルスネークに弱体化の魔法を使った。
「エトス、魔法を頼む!! 『筋力弱化』!! 『速力弱化』!!」
「ええ、分かったの。所詮はデビルスネークも蛇なの、だから氷で切り刻んであげるの。『氷竜巻』!!」
俺がデビルスネークの力と速度を落とす補助魔法を使った、そこから更に仲間の賢者であるエトスが周囲を凍らせる魔法を使った、エトスは水色の髪に蒼い瞳を持つ女性であらゆる魔法に長けていた。エトスの使った魔法は周囲の空気を凍らせて、魔法で生み出した氷の嵐がデビルスネークの体を切り刻んだ。普通の家の一軒分ほどもある大きなデビルスネークだったが、エトスの魔法で体のあちこちに裂傷を負っていた。
「フォン、止めだ!! 『筋力強化』!! 『速力強化』!!」
「ええ、ブレイク!! あとは私に任せなさい、すぐにデビルスネークの首を切り落としてあげるわ!!」
俺は戦士であるフォンに筋力と速度を強化する魔法を使った、フォンは真っ赤な髪に同じ色の瞳を持った女性だった。この『夜明けの太陽』のパーティーのリーダーでもあった、彼女はロングソードをデビルスネークの首を狙って振り下ろした。そうして一撃でフォンは見事にデビルスネークの首を切り落とした、女性といってもフォンは立派な戦士でありこのパーティのリーダーだった。
「ブレイク様、助けて頂いたことには感謝します。でもお気をつけください、『大治癒』」
「ありがとう、アンヌ」
そう言って背中に少し傷を負った俺に、神官のアンヌが回復の中級魔法を使ってくれた。それで俺の背中に負った傷は綺麗に治ったみたいだった、服の背中の部分が破れてしまったが、これくらい仲間を助けるためならどうでもいいことだった。アンヌは俺の背中の傷を治した後に、フォンやエトスに怪我は無いかと確認していた、幸いにも俺以外は誰も怪我をせずにすんだ。
「ブレイクはちょっと優し過ぎるわ、もうアンヌは全く油断し過ぎだわ」
「そうなの、あれはアンヌに責任があるの」
「私のせいでブレイク様が怪我をするなんて、本当に申し訳ございません」
「まぁ、デビルスネークは倒せた。それに皆が無事で良かった、それじゃ俺は剝ぎ取りをするよ」
俺の入っている『夜明けの太陽』は良いパーティだった、最初はフォンと、エトスと、アンヌの十五歳の三人のパーティだった。十年前の俺は三十歳でなかなか冒険者として芽が出なかった、薬草採りなど一時的なソロの依頼で日々を食いつないでいた。それで新人のパーティの指導なども、時々だが冒険者ギルドに頼まれてしていた。そこで俺は『夜明けの太陽』に出会い、今では冒険者として二番目の金の冒険者に俺以外の三人がなっていた、そして俺たちは今日のデビルスネーク退治など良い稼ぎを貰っていた。
元々フォンたちは同じ孤児院の出身で赤ん坊の頃から一緒に育った、そうして十五歳になったら孤児院を追い出されて冒険者にならざるを得なかった。何の後ろ盾もない技術もない三人が働けるところといったら、冒険者か傭兵だったが傭兵になるのは三人は女性だったので危険だった。そんな三人だったからお互いに仲が良くて、俺は最初の頃は警戒されていたくらいだった。でも俺はフォンたちのパーティが一人前の冒険者になれるように、その時の俺にできる限りのことを教えて、そうして俺はだんだんと彼女たちから信頼されるようになった。
そうしたら俺はフォンたちから頼まれて、彼女たちのパーティに入ることになった。俺としては教え子の成長を見るのも楽しかったし、なによりも仲間として頼りにされることが嬉しかった、俺にも居場所があるのだと思ってこの十年を俺なりに一生懸命に働いてきた。俺はシーフで得意なことは補助魔法と罠解除などだった、俺たちはこの十年間を一緒に過ごして上手くやっていると思っていた、三人は女性だったが男性の俺とも仲良くしてくれていた、でもそう思っていたのは俺だけだったと翌日になって思い知らされた。
「ブレイク、貴方を今日限りで首にするわ」
それはデビルスネークを倒した翌日の突然の出来事だった、俺は自分がいたパーティ『夜明けの太陽』が借りている家で首にされた、そうパーティのリーダーである女性のフォンから言われた。俺はこのパーティ『夜明けの太陽』で上手くやっていると思っていた、俺はシーフだったから補助魔法や罠の解除などはもちろん、他にも冒険者ギルドへの報告や雑用まで俺が全てやっていた。
そんな俺に突然リーダーのフォンが首だと言ってきた、本当に突然の話だったので俺は何がなんだか分からなくて混乱した。確かに俺は今年で四十歳になる、もう冒険者を引退してもいい年齢だった。でも昨日までは仲良くしていたパーティから、こんなに突然にパーティを首にされるとは思わなかった。だから当然だが俺は詳しい説明を求めて理由を聞いた、どうしてもこんな簡単にパーティを首にされることに納得がいかなかった。
「どうして俺がいきなり首になるんだ、納得できる理由をどうか教えて欲しい」
「……だってもうブレイクはいい年齢だわ、これ以上冒険に出ると危険よ」
「……冒険者は危ない職業なの、もうブレイクの年齢なら冒険者を辞めていいの」
「……ええ、私もそう思います。優しい貴方にこの仕事は危険過ぎるのです」
三人はそろって俺の年齢のことを言ってきた、確かにもう冒険者として俺は盛りが過ぎた四十歳だった。冒険者としてはもう引退する時期だったのだ、そう改めて言われると俺は何も言い返せなかった。昨日の冒険でも俺はアンヌを庇ったとはいえ、それで背中に傷を負ってしまった、これが若い頃の俺ならきっともっと上手くできた。俺がもっと若ければアンヌを庇っても、きっと傷を負うこともなかった。俺はもう『夜明けの太陽』に残ることは諦めて、このパーティで借りている家から出ていこうとした。
「でっ、でもね。ブレイク、貴方には再就職先を用意してあるわ!!」
「そうなの、とっても良い再就職先なの!!」
「はい、私が保証致します。ブレイク様はきっと、きっと幸せになれます!!」
俺は突然パーティを首にされたことは悲しかったが、再就職先を用意してくれているという仲間たち、そうそんな優しい彼女たちの心遣いには感動した。皆は俺のことが嫌いになったわけじゃなかった、純粋に俺のことを心配して彼女たちは俺を首にしたのだ。それが嬉しくて俺はいい年のおじさんだったから泣きそうになった、そしてその思わぬ提案について俺は彼女たちから詳しく話を聞いてみることにした。まずは神官のアンヌからだった、彼女は頬を少し赤く染めながらこう言ってきた。
「ブレイク様は私と結婚してもらいます」
「え?」
「そして私の崇拝するブレイク様は何もしなくて構いません、私と 子作りだけして貰えればあとのことは全て私が致します。そう私はずっとそうしたかった、私はブレイク様の全てを管理する権利が欲しかったのです」
「え?」
「ブレイク様のお世話をするのは私だけ、どんなわがままでもお聞きします。食事でもお酒でも欲しい物はいくらでも用意致します、そしてブレイク様のお世話は全て私が致します。ブレイク様を決してもう危険な外の世界には出しません、ですからどうか、私をブレイク様の再就職先にお選びください」
「え?」
俺はアンヌの言っていることの意味が分からなかった、アンヌは確かに昔から俺の世話をしたがることが多かった。それに元は綺麗な白い髪だったのに、俺の黒髪が綺麗だからとアンヌは自分の髪を染めているような子だった。でもだからといって俺の再就職先が、まさかアンヌとの結婚だとは思わなかった。俺は皆で冗談でも言っているのかと思った、だから咄嗟に返事も何もできなかった。そうして次はエトスの番だった、エトスは極めて冷静にこう言いだした。
「エトスとブレイクはまず結婚するの」
「え?」
「それからエトスとブレイクはずうっと一緒にいるの、片時も離れることが無いようにもう二人で使う鎖も買ってあるの。それに子作りだって大丈夫、エトスはいっぱい本で勉強したの。最初はちょっと痛いらしいけど、鎖以外でブレイクと結ばれるって素敵なことなの」
「え?」
「だから大丈夫なの、ブレイクが好きそうな物は全て用意してあるの。買い物も使用人にさせるから、エトスとブレイクは二人だけで一緒に家にいればいいの。もうブレイクは家から一歩も外に出なくていいの、ブレイクのことを見ているのはエトスだけでいいの、そう全部エトスに任せてくれればいいの、だから何も心配しないでエトスのことを選ぶの」
「え?」
俺は今度はエトスの言っていることが分からなくなった、エトスは確かに俺の傍に常にいたがる癖があった。俺が離れている時には魔法を使って連絡してくることもあった、そういえば行き先を言っていないのに俺の行く先々でエトスと会うこともあった。ただの偶然だと思っていたが、それはただの偶然ではなかったのだ。エトスの表情はいつもと変わらなかったが、彼女はもう二人を繋ぐための鎖を持ってきていた。そして最後に話すのはリーダーのフォンだった、俺はフォンだけはまともなことを言ってくれると思っていた。
「ああ、ブレイク。やっと私はブレイクを捕まえることができるわ、愛し合っている私たちがようやく結婚できるんだわ」
「え?」
「私はずっとブレイクと一緒にいたかったわ、でもブレイクが私は『夜明けの太陽』のリーダーだと言ったわ。そう私に立派にパーティのリーダーをするように、そう貴方が言うから私はずっと我慢していたわ。本当はもっと早く、そう早く私はブレイクが欲しかった、貴方と愛し合って子作りがしたかったわ」
「え?」
「もう私はブレイクがいなくて不安で何もできなくなったりしないわ、だってこれからは私たちはずっと一緒にいられる、もちろん子供たちが生まれたら乳母を雇って育てて貰うわ。私とブレイクが愛し合う邪魔は絶対に誰にもさせない、だから私を選んでくれるわよね。ブレイクはとっても優しいもの、きっと私を一人にはしないわ」
「え?」
俺はフォンが言っていることが全く分からなかった、フォンは『夜明けの太陽』のリーダーで今まで俺は彼女を頼りにしていた。フォンは俺の言うことを素直に聞いてくれることが多かった、それは俺を信頼してくれている証拠だと思っていた。そういえばフォンは俺がいない時には何もしなかった、いや今なら分かるそうじゃない彼女は不安で何もできなかったのだ。俺は三つの再就職先を聞いて、冷や汗が背中を流れ落ちていくのが分かった。そうして俺は恐る恐る皆に質問をしてみた、どうにか俺の再就職先を別なところにしたかった。
「なぁ、皆。もし俺が誰も選ばないって言ったら、どうなる?」
「その時は全員で死のうって決めているわ、ブレイク。だって私たちのブレイクが誰か他の人のものになるなんて、そんなこと三人とも許せないって意見が一致しているわ。だから絶対に全員で一緒に死ぬわ、ブレイクを一人になんてさせないわ。私たちといつも一緒にいてくれた貴方、そうブレイクなら喜んで一緒に死んでくれるわよね」
「ちなみに俺が誰か一人を選んだら、他の二人はどうするんだ?」
「選ばれた人以外は旅に出るの、もう二度と戻ってこない旅に出るって決めてあるの。ちゃんと選ばれた仲間の迷惑にならないように、そう苦しむことのない毒が用意できてるの。ブレイクはその選んだ人と幸せになるの、もう二度と他の人を見ることができないくらい幸せになるの。なんだったらブレイクの目を魔法で見えなくしてもいいの、そうすればもう他の人なんて見えないの」
「えっとまずありえないんだが、三人全員を選ぶって言ったらどうする?」
「私もその選択肢を考えていました、その時は一日ずつ交代でブレイク様の妻となります。そうして私が神に仕えるように、ブレイク様にも喜んでお仕え致します。そうなりますと四人で住む家が必要ですが、私たちが貯めたお金があります。決してブレイク様を外に出さない、そんな大きくて素敵な檻付きの家が買えます」
俺が幾つか質問をしたら、フォン、エトス、アンヌはすらすらとその質問に答えてくれた。でも答えてくれた内容が俺にとっては大問題だった、まず四人で一緒に死ぬなんてことはしたくなかった。だからといって誰か一人を選んで、残りの二人を死なせるのも恐ろしくてできなかった。かといって三人を選ぶというのも非常識だった、一日ずつ交代の夫なんて俺の知る限りいるわけがなかった。それに何より三人とも言っている言葉の内容が恐ろし過ぎた、誰を選んでも俺の自由というものは無くなってしまうのがよく分かった。
俺はいっそこのパーティからただ追放されていれば良かった、そうすればこの三人の深くて恐ろしい心の闇など知らずに済んだ。でも俺は愚かにも三人の話を聞いてしまった、そう地獄の扉を開いてしまったのだ。そして俺の退路は既に三人の女性によって断たれていた、入り口にはフォンがいてここは通さないと言わんばかりに剣を持って俺にニヤリと笑いかけた、かといって残された逃げ道である二つの窓を見ると、その一つにはもうエトスがいてくすくすと笑っていた、もう一つの窓には当然アンヌがいてやっぱりにこにこと笑っていた。
「さぁ、ブレイク。早く決めて欲しいわ、私は絶対に貴方を逃がしたくないわ。もし、逃げるなんて言われたらとても残念だけど、その長くて綺麗な足を切り落とさなきゃならないわ」
「そうハッキリと早くブレイクに決めて欲しいの、ブレイクがもし仲間以外の他の人を見るなら許さないの。エトスを見てくれないのは寂しいけど、他にはなんにも見えないように魔法で目を潰すの」
「はい、私もそろそろ我慢の限界です。愛しいブレイク様、どうか私をお選びください。もし私たちより外の世界を選ぶなんてことがあったら、私はブレイク様を愛していますから、それでブレイク様の四肢が失われてもずっと愛し続けます」
俺は突然パーティを首になった、でも再就職先はもう決まっていた。そう俺の再就職先は勝手に三人に決められていた、いつから三人が俺のことをそんなに想ってくれていたのか分からなかった。でもそんなことはどうだっていいから、誰かに俺を助けて貰いたかった。フォンたち三人は笑顔で俺の返事を待っていてくれたが、だからといっていつまでもただ待っていてくれるわけがなかった。
「ねぇ、ブレイク。もう私は一秒だって我慢できなくて、その足を切り落としたいくらいだわ。でもブレイクは私にそんな辛いことはさせないで、そう貴方を愛してる私を選んでくれるわよね」
「ブレイクのことがエトスは大好きなの、だからもう待ちきれなくてその綺麗な目を潰してしまいそうなの。ブレイクが大好き、本当に大好きなの、だから早く早くエトスを選んで愛し合うの」
「私は心からブレイク様を愛しております、ですからどうか私に全てをお任せください。そしてブレイク様の美しい手足が失わなれないうちに、私をお選びになってそのお優しく逞しい全身で、私を早く抱きしめて愛して欲しいのです」
俺はまた背中を冷や汗が流れ落ちていくのが分かった、そうして俺はガタガタといい年をした男が体を震わせながら、俺の返事を待ってくれている三人に向かってどうにか言葉を紡いだ。そうして一度だけでも言葉にしてしまったら、俺の自由というものは永遠に無くなってしまった。俺に逃げるという選択肢はもう存在していなかった、俺は三人が心をこめて用意してくれた再就職先に、そう二度と三人とは離れることはできないように永久就職するしかなかったのだ。
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