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14.聖女を消費する神殿
神殿に仕える女性の扱いは、大きく二つに分かれる。聖女のように崇められ、大切に扱われるか。下女や娼婦として利用されるか。要はお金の問題だった。
貴族女性がなんらかの理由で独り身になったり、婚約破棄した場合、多額の寄付金と一緒に神殿に預けられる。寄付金は嫁ぎ先への持参金を充てることが多く、多少窮屈ながらも豪華な生活が約束された。
平民は全く違う。神殿に預けられるのは、夫が死んで婚家から追い出された嫁だったり、手癖が悪く扱いに困った親が捨てたり。ここに、孤児院上がりの少女も含まれる。神殿への寄付などできるはずがなく、その生活は底辺だった。
神官の鬱憤を晴らすため、奉仕活動と呼ばれる娼婦紛いの役目だ。洗濯、掃除、炊事、寄付を納めた貴族女性の世話。多岐にわたる仕事があった。
用意された上階の部屋で、聖女アイシラは神官に呼び止められた平民の少女を見つめる。上等な部屋と衣服、豪華な食事。ここには、すべてが揃っていた。だが窓には格子が嵌められている。立派な鳥籠だった。
「聖女様、大神官様がお呼びです」
「分かったわ」
微笑んで頷く。もう一度窓の外を見つめ、泣き叫ぶ少女が殴られ犯される姿を目に焼き付けた。私も同じよ、大差ないわ。同情なんて湧かない。だってこれから、大神官相手に同じことをするんだもの。
勇者一行と旅をしたことで、私の評価は上がった。だから神殿に戻ったのだ。もう下働きはしなくて済むはず。そう思ったのに、現実は甘くなかった。
冷たい水で洗濯をしなくてもいい代わりに、微笑んで上位神官に足を開く。掃除や炊事など大変な仕事を免除される代わりに、彼らの手が這いずり回るのを許した。食事や衣服、住居を得る代償として、性を消費される。
聖女だなんて、皮肉な称号だわ。アイシラは溜め息を吐き、案内する侍女に続いた。今日は何人相手をすればいいのかしら。できたら、大神官だけで終わればいいけれど。見慣れた扉を潜る。
「聖女アイシラ、ここへ」
「はい」
いつもと雰囲気が違う。アイシラはごくりと喉を鳴らす。厳しい声と正装の神官達の鋭い視線、嫌な予感がした。
「勇者一行の偉業が嘘であった、と国王陛下から連絡が入っている」
意味がわからず、首を傾げる。偉業が嘘? 両ツノの魔王が生きているとでも!? それとも別の話か。アイシラは目を瞬いた。
「魔王は生きておる。神殿はそう判断した」
結論ありきだ。神託を授かる神殿で、神官が「勇者は偽者だ」と言い切ったら? 背筋がゾクっとした。かなりヤバい状況だと気づく。周囲の神官の表情と目つきを確認し、私は踵を返した。
与えられたドレスが足に絡んで邪魔をする。すぐに捕まり、引きずり戻された。
「勇者から再び旅に出るので、あなたを寄越せと連絡があったので……どうしようかと思っていましたが」
「ええ、罪人は外に出せませんな」
「もちろんですとも。塔に幽閉が妥当かと」
アイシラは必死で懇願するも、そのまま塔に閉じ込められた。病んだ心を癒し、改心させるため。名目を付けて、男達が通う。神官だけでなく、金を払った貴族に至るまで。
こんなことなら、神殿に戻るのではなかった。
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