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16.一言一句違わぬ情報
思わぬところから、勇者一行の情報が入った。獣人族の村の一つに、彼らが立ち寄ったのだ。偶然なのだろう。まったく警戒した様子なく、与えた小屋で情報を口にした。
あの辺りは元々、獣人族の領地だ。彼らは捕食して暮らす狩人のため、広い森が必要だった。今回、勝手に開発された村や集落を焼き払ったことで、森は彼らの手に戻ってきた。
過ごしやすいよう工夫して家を建て、集落を守っている。長であるバラム達、戦士が留守にしている状況で、さぞ焦っただろう。だが上手に戦わず、外へと帰した。その上、彼らの話をそっくり情報として送ってきた。
「バラム、獣人族は素晴らしいな」
「有り難きお言葉」
「一度、様子を見に帰ってはどうか。心配だろう?」
「大丈夫だと言われたのに帰れば、疑っているのかと妻に尻を蹴飛ばされちまう」
からりと明るく笑うバラムだが、勇者が立ち寄った報告が入った時は半狂乱だった。すぐに第二報が届き、上手に誘導できたと告げられる。安堵して腰が抜けた彼は、そのまま情報待ちを始めた。
ガブリエルは送られた情報に、しっかり目を通す。バラムも同じで、どこかに危険の兆候がないか。心配そうに眺めていた。獣人族は耳の良い者が多い。ウサギや鹿など、草食系の種族はもちろん。獲物を追う肉食系の種族も聴力は発達していた。
使わせた小屋に近づく危険を冒さなくとも、かなり離れた距離から会話の内容を聞き取ることが可能だ。寄せられた情報はガブリエル達にとって有益だった。
まず領主などの権力者が、勇者を尊重しなくなっていること。禍歌を人族の呪文と勘違いしている点、これは今後の作戦で役に立つ。ガブリエルが最も重要視したのは、神官が同行出来ない点だ。
魔族は治癒魔法が使えない。代わりに個々の治癒能力が高かった。この点が、前回の戦いで大きく影響している。
傷付いても回復に相応の時間が必要な魔族と違い、人族は神の加護とやらで一瞬で回復する。体力も含め回復できる神官の魔法は、非常に厄介だった。
だが、今回は神殿が勇者に協力しない。治癒魔法を使えない魔法使いと、力押しの勇者だけ。元勇者一行だった戦士達と合流するつもりのようだが、ガブリエルは学んでいた。人族は己に不利な譲歩はしない。
かつての仲間であれ、落ち目ならば今の恵まれた環境を捨ててまで、ついて行く理由はなかった。合理的と呼ぶべきだろうが、魔族との大きな違いだ。魔族は過去の恩を必ず返す。その上で同族や親交のある一族が危機に陥れば、損得を考えずに協力してきた。
魔王城へ攻め込んだとき、後方支援を担当した商人は、存亡が懸かっていない戦いに参加するか? 王族を敵に回して、過去数年付き合った程度の友人のために全てを捨てる? あり得ない。
「崩壊していく様を見るのは、本当に楽しいな。魔族に被害がない戦いも悪くない」
正面切って戦う方法もあるが、それではすぐに決着がつく。一瞬で焼き払い、楽にする気はないのだ。傷つき、泣き喚き、守った人々に追い詰められ、絶望の中で息絶えろ。そうでなくては、策を練った甲斐がない。
黒い鱗を閃かし、小柄な竜はにたりと笑う。見た目以上に大きく感じさせる魔王に、獣人族の長は静かに頭を下げた。
新年のご挨拶を入れる予定でしたが、地震がありましたので自粛します。ご無事でありますように!
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